ベビーベットの上にぶら下げられたオルゴールメリーが穏やかな音色を奏でていて。 ふわり、と舞いこむ初秋の風が澄み切った空のにおいを運こんでくる。 町の木々も冬に向けて衣替えを始めていた。 オーブ全土に。 その小さな港町に。 そして、新しい命が舞い降りた家に.。 秋が、やって来た。 風が見た幸せ ふぁんたむ・ぺいんの前の落ち葉を風が舞い上げる。 くるくるくるくるとつむじとなって人々の前を通り過ぎて行く。 あけ放たれた二階の窓から一筋の風が白いカーテンを払った。 さらり。 そして続けざまにオルゴールメリーの先を揺らした。 コロ……ン。 ベビーベットのそばにいた若い父親が風の気配に気づいて顔を上げたが、すぐまたベビーベットに視線をもどした。その口元には微笑みが。 「おい、ステラ」 「なぁに」 ベビーベットを覗き込んでいたアウルがご機嫌な様子で窓を閉めようとしたステラに手招きをした。 とてとてと小刻みな足取りでステラは傍へと来ると同じようにベビーベットを覗き込んだ。 ベビーベットの上では小さな男女の双子がすやすやと寝息を立てていて、息子の方は妹のほうに背を向け、娘の方はうつぶせになっていた。 うつ伏せになっている娘の姿にアウルの言わんとしている事に気づいてステラがあ、と声を漏らした。 「だろぉ。コイツ寝返り打てるようになったみたいだぜ」 アウルが嬉しそうにそう言うと、コイツはまだか、と片割れの息子を指先で突っつく。 その光景があまりにも平和でおかしくて。ステラはクスクスと忍び笑いを漏らした。 「だめ、だよ。起きちゃう……よ」 「だって」 穏やかに手を伸ばしてアウルの手を引っ込めさせると、アウルは不満げに口を尖らせつつもおとなしく従う。 ――そのときだった。 ころり。 残ったもう一人も彼のリクエストに応えるかのように寝返りを打って見せたのだ。 アウルとステラは喜びのあまり手をとり合ってその光景を見守った。 ころり。 サービスだといわんばかりに娘がまた半回転し、兄に寄り添う形になる。 ぽてっと投げ出される小さな腕。 握り締められた、丸々とした指。 小さく上下する胸にぷっくりとした頬。 どれもアウルとステラに幸せをくれた。 サラリ。 子供たちをあやすかのように、と風が双子の頬を撫でた。 「はいはいはいつかな」 「はいはい?」 今から待ち遠しいといった調子のアウルにステラは小首をかしげた。はいはいという聞きなれない言葉を聞いたから。 「這って歩くこと」 「そう」 うなずき、アウルもかつてはそんなときがあったのだろうか、とおもってマジマジと彼を見つめていると、アウルの方もやっぱりまじまじと見つめてきて。 合わさった視線にお互い紅くなった。 照れくさいような、恥ずかしいような、そんな空気。 アウルがステラの元へと一歩、近づく。 ステラもまた一歩前へと進み出る。 二人が触れ合う距離まで来た時―― 「おーい、アウルステラ。お得意さんからもらい物のケーキ……」 食うかぁと唐突に部屋を覗き込んだスティングの最後の一言は音になることなく宙に流れた。 眼前にくっつく寸前だった二人の姿。 ……気まずい空気が流れた。 「……すまん」 間の抜けた台詞だと思ったが、ほかにかけてやる言葉がみつからず、とりあえずスティングはあやまった。 視線を宙を泳がせてなんでもないと手を振ってごまかすアウル。 何も言わずに頬を染めるステラ。 風が、笑っていた――。 あとがき After〜のアウルとステラは昔の方が恥ずかしい、と言う意識が薄く、今になって恋をしているようなそんな感じです。 はいはいを始めるのは3ヶ月くらいだそうです。そうなると行動範囲が広がるから大変だろうなぁ。 |