私はカガリ・ユラ・アスハ。
オーブの代表首長を務めている。

アウルとステラに双子の赤ん坊が生まれたと聞き、
私は一刻も早く彼らに会いたくて仕方なかった。
私とキラのように男女の双子だぞ?
これはもう運命といっても過言ではないと思う。
名前は確か
オーブの神話に出てくる、海の神と大地の女神の名だ。
私がつけるのを手伝ったんだぞ。
ふっ、どうだ!
いい名だろう?
問題は赤ん坊たちが大きくなったら私をどう呼ばそうか、だ。
間違っても「おばーさま」とか「ばーちゃん」とはよばせないっ!!
私はまだ20代だぞ!?
父親のアウルと一つしか違わないのにそんな風に呼ばれてたまるか!!

・・・おほん。
ま、まあそんなことより。
ステラの出産に立ち会えなかったから一刻も早く、アウルとステラの子供たちを見に行きたいのに。

・・・・行きたいのに。


「おげぇ・・・・・・」


思わず辟易とした呟きがもれた。
目の前にうずたかく積もるは書類のエヴェレスト。
正面のドアが見えないほどだ。
この書類の山はなんだ?
なんでこうも後から後から出て来るんだ?
嫌がらせか?



「カッガリ〜〜〜ン、この書類にも目を通しておいてねv」


気持ちの悪い猫なで声と共にユウナが更に大量の書類を私の机に追加してきた。
おまけに小指まで立てて笑ってやがる。
絶対に嫌がらせだ。
見てろよ、このくらいでへこたれる私じゃないぞっ!!






















アウステベビー物語

第9話
ようこそ、我が家へ























「今日は退院ですねー。だんな様が迎えに来るんでしょう?」
「だんな様・・・・?」


カーテンを開けて微笑む看護婦にステラは小首を傾げて見せた。
彼女の腕の中では金の巻き毛の赤ん坊がご機嫌に手足をばたばたとさせ。
その片割れは迷惑そうに顔をしかめている。


「うふふ、照れていらっしゃるんですか?双子たちのお父さんのことですよ」
「お父さんを・・・・だんな様と呼ぶ・・・の?」
「そう呼ぶ方もいるみたいですよ。幸せそうな新婚さんとか」
「しあわ・・・せ・・・・」


ステラはゆっくりと言葉を繰り返すと腕の中のわが子たちを見やった。



この子達がいて。
アウルとスティングがいて。
シン達もいる。
周りは光で一杯で。


母親から注がれる眼差しに気づいたのか、
先ほどまで不機嫌そうに顔をしかめていた蒼い髪の赤ん坊は
すみれ色の目じりを下げて笑い。
金色の髪の赤ん坊は嬉しそうな笑い声を上げ、両手を母親の方へと伸ばした。
ステラが頬を寄せると暖かくて柔らかい手が触れる。
胸にこみ上げてくる愛しさ。
暖かさ。


新婚さんとかだんな様とか良く分からない。
でも。
幸せなのだから。
ステラはとても幸せだから。
だんな様。
アウルをそう、呼んでみよう。
なんて言うかな・・・・。







「ステラァ〜〜〜〜!!!!」


カチンと時計の長針が10時をさした瞬間。
面会開始時間きっかりに蒼い髪の青年が待合室の入り口から飛び込んできた。
後ろにあきらめきった表情の萌黄の青年がため息交じりに続く。


「ちょっとそこのあなた!!廊下を走らないでください!!」


廊下を走り抜ける蒼い髪の青年、アウルを見咎めて婦長らしき看護婦が厳しい口調で注意をした。


「るせぇっ、クソババぁ!!」


だがアウルは中指を立ててそう悪態をつくとかまわず階段を駆け上がった。後ろでなにやら金切り声が聞こえてきたが、アウルはすっかり無視を決め込み、一目散に目的地を目指す。


「お宅はどういう教育をしていらっしゃるの!?」
「すいません、すいません」


当然とばっちりを受けるのは保護者たるスティング。
青筋立てて怒る看護婦にひたすら頭を下げながら、またもやため息をつくのだった。
ステラと双子たちの退院と言うことでアウルは昨夜から落ち着きが無く、スティングにとってもいい迷惑であった。


「スティングぅーー、明日チビ達をくるむ産着はどれがいいと思う?」


昨夜遅く。
店じまいした後、ラジオを聞きながら新聞を広げていたスティングの前にたくさんの産着を抱えたアウルが姿を見せた。
こっちも良いし、これも良いしと迷うところはまるでウインドウショッピングを楽しむ女学生のようだ。


「ああ?なんでもいいんじゃねーか」


スティングはやや呆れて新聞から目を離さずに答えると
目にしていた新聞が取り上げられ、アウルの手によって見る間に紙くずに丸められてしまった。


「ほいっと」


軽快な掛け声と共にそれはくずかごへと放り投げられ、あっという間にくずかごの中へと姿を消した。


「てめぇ・・・・」


こめかみをぴくぴくさせるスティングの前にずいっと大量のベビー服が押し付けられた。


「なぁなぁ、どれがいーと思う?」
「・・・・」

怖い。
なんかこえー。

笑顔だが有無を言わせないアウルの態度に観念したスティングは一晩中ベビー服の選定につき合わされた。
そして今朝も。


「スティングぅー、いつまで寝てんだよ!!ステラとチビ達迎えに行くぞ!!」
「あ?」


アウルのがなり声でたたき起こされたスティングは寝癖をつけたまま、寝ぼけ眼で時計を見やった。


A.M.4:00。
寝たのは夜中の1時。


「・・・・オヤスミ」
「何がオヤスミだ、コラぁ!!」


再び寝床にもぐりこんだスティングの布団をアウルは力ませに引っ張った。


「うるせぇっ!!何時だと思ってんだ!!」


当然スティングも引っ張り返す。
負けじとアウルもまた。


「鶏だって夜明けと共におきるじゃねーか!!」
「俺は鶏じゃねーんだよ!!」


両方から力ませに引っ張られ、哀れな布団は真っ二つに引き裂かれてしまった。
ソロモン王の物語に出てきた母親二人と息子のようにはどうやらいかなかったようだった。
アウルに引きずられるようにしぶしぶ付いていったものの看護婦に面会と退院の手続きは10時からととがめられた。


「ざけんな!!また4時間以上もあるじゃねーか!!」


だな、とスティングはまだ眠気の残る頭を振りながら自分の時計を見やった。
アウルは食いつかんばかりに看護婦を睨みつける。
だが。


「規則です」


アウルの殺気にも動じず看護婦は無常にもきっぱりとそう告げた。





それから4時間あまり。
文字通りアウルはステラのいる5階へとすっ飛んでいった。


・・・・エレベーター使いやいいのにな。


ようやく看護婦の小言から解放されたスティングはエレベーターに乗り込むと5階行きのボタンを押した。




ステラと双子たちに逢える。
今日から同じ屋根の下で家族だ。
俺らに新しい家族が出来たんだ。


家族と言う言葉にアウルの胸が躍る。


ステラにはお疲れとたくさんのキスと抱擁を。
新しいお菓子のメニューも考えてある。
チビ達にはミルクを温めてやってオムツを替えてやって。
一緒に遊んでやろっか。

喜び勇んでアウルはステラのいる病室に飛び込んだ。


「ステラァ〜〜〜〜迎えに来たぞ!!」
「あ・・・・だんな様」


ステラのつぶやきに派手な音を立ててアウルは床にすっころんだ。


「騒ぐならよそでお願いします」


カルテを抱えた産婦人科医と看護婦が苦虫を噛み潰した顔で彼を見下ろして言った。


「だいたい何だよ、だんな様って」


ベビーベッドの上でほえほえと笑う双子達に産着を着せてやりながらアウルが問うと、
ステラは少し考え込む仕草を見せた。


「うんと・・・・新婚さんが良く使う・・・って」
「俺ら結婚はまだじゃん」
「そっ・・・・か」


残念そうなステラのつぶやきにアウルは慌てて気は悪くしていないと首を振った。
白い頬を染めながらステラにおでこを寄せた。


「あ・・・え・・・・と、で、でも嬉しいかな・・・・。照れくせーけど・・・・」
「ホント?」


ふわりと笑うステラを心底愛しいと思い、アウルは彼女の金の髪に手を伸ばして撫でる。


「スティングとか他の奴らの前では言うなよ?」


つややかで心地よい金の糸。
細くて透き通るように薄く。
これが集まってステラの金になるのだからまるで光のよう。
そう、光の集合体という表現がふさわしい。

うっとりと撫でられるがままのステラは頷くとアウルの首に手を回した。


「ん・・・・。分かった・・・・だんな様」
「もっかい」


アウルも腰に手を回してステラを抱き寄せる。


「だんなさま・・・・」
「ステラ・・・・」


ゆっくりと互いに唇を重ねて深く深く口付けた。
一週間とはなれていなかったのにまるで何年も離れていた恋人たちのように
甘いキスを繰り返す、そんな二人を見つめる瞳が二対。


「・・・・先生。私たちは『他の奴ら』の中に入ってないのでしょうか?」
「バカップルはほっといて、さっさと退院の手続きを済ませてしまおうか」







「退院の手続きは終了しました。ちゃちゃーと帰ってください。ちゃちゃーと」


アウルたちの空気に当てられた産婦人科医は手でパタパタと自らを仰ぎながら後から来たスティングに書類を手渡す。
看護婦は顔を紅くしながら後ろの二人から意識をそらそうと懸命だ。
彼らの後ろでアウルとステラがまだべたべたと抱き合っているのが見える。
目のやり場に困っている担当医たちを気の毒に思いながらも、その光景をもはや冷静に受け止めてしまっている俺っていったい・・・・とスティングは一人ごちて天井を仰いだ。

慣れとは恐ろしいものだ、と。






「待っていたぞ!!」
「お帰りなさい」
「よぉ」
「うふふ、母子とも健康そうで何よりね」


我が家であるふぁんたむ・ぺいんの前ではカガリとアスラン夫妻、ソキウス。
そしてネオとマリュー夫妻が待っていた。
久方ぶりに見るカガリの姿にアウルの目が輝く。


「かーさん!!」
「ステラとチビ達の退院おめでとう」


アウルの傍へと歩み寄ると彼の抱く赤子の顔を覗き込んでカガリは満面の笑みを浮かべた。


「へえ、お前似か。甘ったれにならないといいな」
「なんだよぉ、それー」

ぽんぽんと頭を叩かれて不満そうにむくれるアウルはまるで幼い子供のようだ。
母親としてカガリに甘えているのだろう。
ステラの機嫌が悪くなりはしないかとスティングははらはらと見ていたが、
ステラ本人はまるで気にしていないようで、誇らしげに自分の抱く赤子も見せていた。


「この子は・・・・ステラ似・・・・」
「名前はだったな?ははっ、可愛くなるぞ、きっと。・・・・抱いてもいいか?」
「うん」


子供を生んだことでステラはとても自信に満ちていた。
愛されていると言う、自身。


この子たちにはステラとアウルがいるの。
ずっと一緒。




「片割れも抱かせてくれ」


カガリはをステラに返すと今度は片割れのをアウルから受け取り、
すみれ色の瞳を瞬かせる赤子の顔を覗き込むと琥珀色の瞳を細めてわらった。


「よう、。私はカガリだ。ばーちゃんと呼ぶなよ?カガリ、だからな」


名前を強調するカガリに周囲は笑いをこらえようと必死だったが、
アウルとステラだけが彼らの笑う理由が分からずきょとんと彼らを見やっていた。
すると一緒になって笑っていたアスランは何か重大なことに気づいたように叫んだ。


「なに笑っているんだ、俺は!!人事じゃない!!俺もじーさんは嫌だからなっ!!」
「なんかよくわからないけどいーじゃん?ハゲ予備軍なんだからさ」
「俺はハゲじゃない!!」
「ハゲ予備軍、です。その事に反応すると言うことはハゲなのですか?」
「ハゲじゃないというとろーが!!」


ソキウスには悪気は無いのだがアスランにとって侮辱にしか聞こえない。
顔を真っ赤にして彼に食って掛かるのを周囲が笑いながら止めていた。



双子たちが愉快そうに笑い声を上げている。
そしてその若い両親も。
スティングも。
皆も。




「ふぁんたむ・ぺいんへようこそ、
「ここはママたちと二人の家だよ」
「歓迎するぜ。仲良くやっていこうな」













蒼い、蒼い空が彼らを見下ろしていた。













余談。



アスハ邸執務室。


「カァ〜〜〜〜ガァ〜〜〜リぃ〜〜〜、僕に書類を押し付けて逃げるなんてひどいじゃないかぁっ!!」
「黙ってきりきり働け!!」


キサカを見張りにアスハ代行としてユウナが書類の決裁に追われていた。









オーブは今日も平和だ。
























あとがき

アニメでは悲惨な最期だった上すっかり忘れ去られたユウナ。
戦後パラレルではマイペースにしぶとく生きてます。

そして舞台はふたたびふぁんたむ・ぺいんへ。
大張り切りのアウルパパ。
ほわほわのステラママ。
相変わらず苦労人のオクレ兄さん。
そして個性的な双子の兄妹を加えてまたにぎやかになります。
暖かく見守っていただければ幸いです。