具合が悪くてアウルとスティングに病院に連れて行かれて分かった妊娠。
わたしは『母さん』になるのだという。
よく分からないけれど、それはとても幸福な事だと聞いた。
本当は喜びより不安の方が大きくて、とても怖かった。
でも周りが良かったね、おめでとうと。
祝福してくれ、
何よりもアウルとスティングが喜んでくれてたのが
わたしは嬉しかった。
辛かったのは身体が思うように動いてくれず、
お店が手伝えなくなったこと。
でもアウル達は体調に注意して元気な子を産めと
励ましてくれた。
ごめんね。
調子が良くなったらまた手伝うから。
頑張って元気な子供、産む。
どんな子が生まれてくるのかな?
男の子?
女の子?
出来ればアウルと似た子が欲しいとわたしは思った。










アウステベビー物語
             
第3話 
           
まだ見ぬ君へ







ステラがリタイアしてからというものの、アウルとスティングはきりきり舞いの忙しさだった。ピンチヒッターとしてキラを引きずり込んでいたりしたが、それもそうそういつも出来るわけが無く、限界があった。その上バイトもなかなか決まらず、スティングは頭をなやませていた。そしてもう一つの悩みはステラだった。悪阻がひどく、食欲が無く、どうやって栄養を採らせるかが悩みだった。


「ステラ、これなら食えるか?」

アウルが牛乳と葛、そして抹茶を固めたお菓子をステラに勧めていた。くどくならないように工夫を凝らしたアウルの手作りだ。

「あーん」
「・・うん」

差し出されたスプーンをステラは素直に口に入れた。爽やかな甘みと苦みがとても心地よく、のどごしの好いそれはステラの食道を何の抵抗もなく滑り落ちていった。しばらく心配そうにステラを見やっていたアウルだったが、彼女が飲み込んだのを見ると安堵の笑みを浮かべた。

「・・あーん」
「はいはい」

食欲の兆しを見せて口を開けるステラにアウルはまたスプーンを動かす。彼女が美味しいと笑うと彼も嬉しそうに笑った。

愛しくて、大事なステラ。
男の自分は産みの苦しみは変わってあげることも理解してあげることも出来ない。
だから悪阻で苦しむ彼女に自分が何かを出来ることがアウルは嬉しくて仕方がなかった。
そして彼女の胎内には自分とステラの子がいるのだ。
自分達の生きているという、証。
くさいこと言えば愛の結晶ってヤツ?とアウルは照れくさそうに笑う。
ふとステラの口元に気付くと、アウルは彼女の口元に唇を寄せ、ぺろりと舌で撫でた。

「・・くすぐったい・・」
「口元に付いてたんだよ」

アウルの突然の行動に頬を赤らめるわけでもなく、さらりと撫でられた感触に純粋にくすぐったいと、ステラは紅い瞳を細める。当たり前のように受け取る、その仕草がまたアウルにとって可愛く映った。。

「ステラ」
「ん?」

アウルは我慢できないというようにステラの唇を奪った。細い身体を抱き寄せて角度を変えながらゆっくりと唇を味わう。そして名残惜しげに離すと、つうっと二人の間に銀の橋が架かっていた。

「アウル・・」
「あはっ。これくらいいーだろぉ?」

ステラの潤んだ紅い瞳にアウルは理性を保つのがやっとの状態だった。彼女が妊娠していなかったらまちがいなくここで押し倒していただろう。これはアウルにとって半ば拷問だった。
ステラは背中に回していた腕を放すとアウルの髪をゆっくりとすく。
とても大事な宝物のように、何度も何度も優しく。

「早く生まれてきてくれると、いいね・・・」
「ん・・・」

空いたもう片方の手にアウルは頬を寄せて頷く。

「男でも女でもどっちでもーいーからさ。生まれてきたら目一杯抱きしめてやろうな」

脳裏に浮かぶは彼等の幼き日々。
血で血を洗った凄惨な毎日。
求めても得られなかった愛情。
求める術を知らなかったあの頃。
与えられたほんの僅かな温もりが大きな救いだった。
例えそれが刷り込まれた偽物だったとしても、だ。
だから生まれてくる子が幸福であるために。
そして自分達のために目一杯抱きしめてやりたいとアウルは思う。

「うん。あといっぱい大好きって言ってあげたい」

示される言葉が全てじゃない。
けれど。
言わなければ伝わらないからとステラは言う。

「だね。でも僕の分も残しておけよ」
「うん。アウルもステラの分、残しておいて?」
「あたりまえだろー」

ステラは大事そうに自分の腹部を撫でる。
アウルもそんなステラに瞳を細める。
例えようもない、幸福。
待っているから。
早く顔を見せてと二人はまだ見ぬ子供に微笑んだ。




あとがき
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まずはすいません。
バイトの人は次に持ち越しになりました。

ここまで読んで頂き、有り難うございました。