ステラの妊娠発覚から数週間。
相変わらず食欲がなく、つわりはますますひどくなるばかりで、ステラはもはや仕事どころではない。だがアウルと二人で店をやるにはあまりにも人手不足だった。店も軌道に乗り、どうにか余裕ができたので俺は思い切ってバイトを募集することにした。






      アウステベビー物語
             
               
第2話 
           ステラ体調不良につきバイト募集中






「バイトぉ?」

最近店に良く通ってくるシンはスティングからバイトの募集のことを聞くと、入り口のバイト募集の張り紙と同じ紙を見た。そして手元のオムハヤシの卵とデミグラスソースを絡ませながら口に入れると、舌の上に広がる半熟卵の甘さとソースの程よい酸味とコクのある組み合わせに紅い瞳を細めた。

「必要ないんじゃないの?スティングの飯、うまいし。ルナにも教えてやってくれよ」
「・・・頼むからこれ以上仕事を増やさないでくれ」

シンの恐ろしい要望にスティングは二重の意味でそうこたえた。彼女に教える時間の余裕がないことと後始末が大変だからだ。ルナの料理の腕前はそんじゃそこらの下手というレベルではなく、一回でも教えるとキッチンは大惨事の場所と化す。ゆで卵を作るんだと、生卵をパックごとそのままレンジにかけて爆発させたり、上げすぎた油の温度を下げようと水を入れたりするなど、やる事がとにかくすごいのだ。シンのヤツ、また備品修理費の請求書が欲しいのかよと接客中のアウルは呆れた。今は昼時ということもあり、ステラも店に不在のため、スティングとアウルは大忙しだった。常連と化しているキラを引きずり込もうにもこの日に限ってキラは姿を見せなかった。アウルたちがそろそろやばいなっと思い始めたころ。居住区につながるドアが開き、真っ青な顔をしたステラが出てきた。赤ん坊を抱える彼女のおなかはもうだいぶ大きくなっており、そろそろマタニィティ・ドレスが必要になりそうだった。青い顔のままふらふらと出てくるステラを子供の父親となる予定のアウルが慌てて駆け寄った。

「アウル・・手伝う・・」

消え入るような声でエプロンを手にするステラをアウルは彼女からエプロンを取り上げて、彼女に部屋に戻るように促した。

「バ,ばかっ!寝てろっつーに」
「だって・・お店忙しそうだもの・・」

アウルがあわててドアの向こうにステラを押し戻そうとするが、彼女は頑固に動こうとしない。困り果てたアウルは食事をしているシンの方を見やると、にやりと笑った。

「店の方なら大丈夫!シンが手伝いに来てくれたから、部屋にもどれって」
「俺は客だぞ、おいっ」

アウルの言葉に口の中の水を噴いたシンが当然のごとく抗議をするがお構いなしにアウルは続ける。

「もうすぐ食べ終わるから、手伝ってくれるってさ」
「てめぇ、いい加減に・・・」
「シン・・。ほんとう・・?」
「へ?」

ステラに期待のまなざしを向けられたシンは怒りを忘れ、口をパクパクさせた。
アウルはそのチャンスを逃すまいと会話に畳み掛けるように彼にエプロンを押し付ける。

「体調の悪いステラのために手伝ってくれんだよなぁ?」
「う・・・」

狼狽して紅い瞳をさ迷わせるシンにしてやったりとアウルはチャシャ猫のような笑みを浮かべた。シンは妹属性のステラにはとことん弱い。ルナマリアという恋人ができてもシスコンはシスコン。彼は未だにキング・オブ・シスコンの名を欲しいままにしており、キラ・ヤマトのシスコンぶりといい勝負であった。可愛いステラの真摯なまなざしを無視できず、シンはとうとう両手を挙げて降参の意を示した。

「わーかったよっ、手伝えばいいんだろっ、手伝えばっ!!」
「おっ、シンちゃん、助かるぅ〜」
「シン、ありがとう・・・」

手をたたいてはやし立てるアウルを軽くにらみつける一方、ステラには優しい笑み向けて頷くと、シンはエプロンをつけて袖をまくった。そして仕事にかかる際、アウルに一言付け加える。

「バイト代はしっかりもらうからなっ!」
「変なところでちゃっかりしてんやんの」
「当たりまえだっ」

ステラを自室に戻し、張り切って接客に挑んだシンではあったが、なれない仕事に彼はヘマばかり。皿やカップは割るわ,料理はひっくり返すわ。仕事が減るどころか仕事は増える一方であった。

「・・バイト代どころか請求書もんだな、ありゃ」
「わりぃ、スティング。僕のせい」

頬杖をついてため息をつくスティングにアウルは申し訳なさそうに手を合わせた。このままでは埒が明かない。早急にバイトが必要だった。仕事を増やし続けるシンを視界の隅に、早くバイトが来てくれないか、とスティングは祈るような気持ちで入り口の張り紙を見やるのであった。





あとがき
2000hit超ありがとうございました。だいぶ遅れましたが、アウステベビー(前夜)第2弾です。まだ二人は出てきませんが、気長にお待ちください。とりあえず、3000hit記念として二人の設定もアップしたいと思います。名前、どうなるかなぁ。