まるで俺らみたいだ、と思った






















 海を見るとかというガラじゃないけれど、なんとなく外に出たくなってデッキへとあがったんだ。















  重い扉を開けてデッキに出たとたん、吹き付けてきた海風。



 それは夏のように熱や湿気を帯びたものでも、冬のように刺すような冷気を帯びたものでもない、秋らしい冷涼さを帯びていた。


  だけど風の強さだけは全然変わって無くって髪をむちゃくちゃに乱され、それがひどく忌々しくて出てきた舌打ち。


 水平線の方へ歩いて行くとやがて眼前に大きな海原が広がった。


  デッキから覗き込むとどこから流れてきたのか紅と金色のモミジがぷかりぷかりと浮いていた。


  
  誰もいないことをいいことに大の字にねっ転ぶと退屈そうな太陽と空が僕を見下ろしていていたけれど、夏の間は大きな顔をしていた太陽も今は大人しい。


  これは幸いと昼寝を決め込んで目を閉じる。何かあれば、時間が来れば、あの兄貴気取りのスティングが来てくれるだろう。



  風も空気もゆりかごのように自分を穏やかに包み込んでくれる。聞こえてくるのは波の音とウミネコの声、それだけ。うとうとしかけた時、それらに混じってデッキを走る靴音がしてきた。


  踵のある靴音にまたかよ、と内心舌打ちをして狸寝入りを決め込もうとしたら、小さな悲鳴。

 
  次の瞬間、何かが自分の腹の上に落ちてきた。
 

 続けざまに何かが転がる音がしていたけれど、僕はそれどころじゃない。


 僕からも悲鳴がもれ出た。悲鳴っつーかカエルが潰れたような声、という表現が正しい。


 落下物であるバカステラの肘が綺麗に僕のみぞおちへと入っていたんだ。


 ついでに腹も圧迫され、刺すような苦痛と呼吸困難と吐き気と言った三重苦に見舞われたんだぜ?怒りのあまり声が出たけれど、声を出せた僕もすごいね、ホント。



  「何しやがる、バカステラ!」


   
 僕の上に腹ばいになってしまっているステラに怒鳴りつけると、彼女は涙をためてごめんなさいと消え入りそうな声で言った。


  けれど視線は僕の方ではなく、その先に注がれていていた事にむっと来てその視線の先を手繰ったら。


 小さな包みからこぼれ出ていた紫色の丸玉。秋の果物――巨峰だった。


 何かが落ちて転がった音の正体はこれだったんだと納得していると、ステラが起き上がって其れを拾いに行った。



  「アウル、と食べようと思ったのに」



 とぼとぼ戻ってきて涙声でそう訴える彼女に僕の怒りが引いて行き、代わりに沸きおこったのは罪悪感。ちょっと待て、僕が悪いはずじゃないのにこの罪悪感はなんだよ?!ステラは何もないところで転んで僕はその下敷きになったんだよ?僕ってば被害者でしょ?


 そう自分に言い訳しても心は晴れない。ここでステラに泣かれたらせっかくの気持ち良い昼寝タイムがお釈迦になってしまう――最悪、スティングが飛んでくる。うげ。
 

「あー、泣くな。こんくらいなら大丈夫だって」

  
 
 全部が全部転がって行ってしまったわけじゃねーし。


 適当な言い訳を考えて慰めてやる。スティングやネオがしていたに頭を撫でてやりながら。はいはい、良い子だからねー。僕の心と体の平穏のためにそれ以上泣くなよ、頼むからさ。 

  

「そう……?」



 しょんぼりとぶどうの包みを手にしたステラが上目遣いで僕の意思を確認してくる。



「そーだよ」

    

 大きくうなずいて見せるとそっかぁ、ととたん光輝く笑顔になるステラにああ、なんて単純お馬鹿と僕は呆れた。


 其れがコイツの便利な所……でもいい所。



「はい、あーん」


     
 差し出されるぶどうの粒に恥ずかしくなったけれど、他の誰もいないし、いいかとそのままほおばったんだ。


 するとステラがにこにこと嬉しそうにあんまり見つめてくるから、余計恥ずかしくなってそっぽを向いた。



 皮の微かな渋みのあとに口に広がった甘酸っぱさ。


















 ベタな表現だけど。
 まるで俺らみたいだなって思った――。