部屋にはモーツアルトとかいう音楽家の曲が流れている。 ここ数ヵ月間胎教にとステラが流している音楽だ。 ゆったりとした音楽は胎児だけではなく、母親となるステラにも良い精神安定剤となるそうで毎日のように聞いている。 他にもポップスという曲とか環境のCDとかもかけていて、そのバラエティーは豊富だ。それらを持ち込んだのはアウルやシン、そして以外にもレイ・ザ・バレルだったりする。クラシックとかいう曲は主に彼だ。どういうわけかステラはあのレイとか言うヤツにも懐いているみたいで、そのレイ・ザ・バレルも彼女を憎からず思っているような気がする。おまけに表に出ると仲が良い兄妹ねぇとまで言われている。 ・・・・俺を差し置いてだぞ!? ステラの兄貴分は俺だ。 それは譲れねー。 負けてたまるか。 ・・・といういわけで俺は今CD売り場に来ている。 ふっ、こんなのはMSの操縦と何もかわんねーはずだ。 だが肝心のCDはどんなヤツが好いのか、どれがどのジャンルなのか、どんな音楽なのかまったく分からない事に今更ながら気付いたのだった。 |
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アウステベビー物語 第6話 アウステベビー、扉を叩く |
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「うふふ」 「?どーしたんだよ?」 写真アルバムを手に静かに音楽を聴いていたステラが急に忍び笑いを漏らすとアウルは怪訝そうに彼女を見やった。 予定日は来月で臨月も間近い。 当のステラよりもアウルの方が神経質になっていてちょっとした仕草にも反応してしまうのだ。 「赤ちゃんがね、動いたの。中で蹴ってる」 「え・・・・っ。だいじょーぶか?痛くね?」 心配そうにステラの側に来たアウルにステラは大丈夫と笑って見せた。大事そうにさすると、今度はアウルの方を見やって触ってみる?と聞くとアウルは照れたように頬を染めると羽毛に触れるようにそっとステラのお腹に触れた。すると手の平がぴょこんと跳ねるのを感じて、アウルは瞳を見開き、興奮気味にステラを見やった。 「すっげー!動いてるンじゃん!!」 「うん。他にも・・・・窮屈そうに伸びをしていたり」 「うん、うん」 「お風呂にはいると・・・・ね。気持ちよさそうに寝返りを打つの」 「マジで?」 小さな子どものようにマリンブルーを輝かせるアウルが可愛いくてステラは思わず跳ねっ毛の頭を撫でた。いつもならうるさがる彼だが、今はそれどころではないようでステラの中にいる子どもの方に全神経を向けている。 「生きてるんだなぁ」 感慨深げに息を吐くと、ステラのお腹を撫でて笑った。アウルは未だにこの状況になれる様子がない。まだ新米パパ(予定)なのだから当たり前なのだろうが、ステラの言葉に行動に一喜一憂する様はステラの目にとってもそして周囲の目にとってもとても微笑ましくかつ滑稽に映る。 「あと冷たい物を飲むと、くすぐったそうに手足ばたばたさせるの」 「冷たいと感じてんのかな、やっぱ」 うんうんと納得してるアウルにステラはふと悪戯心を覚え、口端に意味ありげな笑みを浮かべた。 「アイスとか。かき氷の一気に食べたりしたら・・・・。どう、動くのかな・・・・」 「おい!子どもで遊ぶなって・・・・」 「うふふふ」 やめてくれよと哀願しそうな勢いのアウルに人の悪い笑みを浮かべるステラ。昔と比べ、すっかり立場が逆転してしまっているようだった。 すると居間にある時計がかちりと鳴り、午後3時を指していた。その時間にアウルは立ち上がると帽子を探して取りだし、ステラを顧みた。 「もうそろそろ、散歩の時間だな。スティングはまだ帰ってきてねぇけど、行く?」 「うん。メモ、残しておくね」 ステラが自然分娩できるように日頃の運動は欠かさない。ステラの体調が安定すると散歩は日に2回と増えた。日夜1回ずつ。昼はステラは手の空いている誰かが、夜はアウルが必ずつき合う。暑い夜は冷たいジュース、寒い夜は温かいココアを買って飲みながら空の星を数えたり、波や風のささやきに耳を傾けたりしていていた。 ステラはメモを残すついでに出してあったアルバムを本棚にしまおうと手を伸ばして触れた。ともに笑い、過ごしてきたこの9ヶ月間。 ステラのお腹が大きくなっていく過程が沢山の写真に納められているアルバム。 つわりがひどくて青ざめた顔色で 必死に笑おうとしてしかめっ面になってしまったステラ。 初めてのマタニティではしゃぐステラ。 海の前でご機嫌なステラ。 赤ん坊が動いたと大喜びし、 胎教で見た名作アニメで泣くステラ。 その周囲には必ずと言っていいほどアウルやスティングがいて。 そしてシンやルナマリアといったおなじみの面々がいた。 僅か10ヶ月未満の間だったが、10年以上に匹敵する沢山の表情、沢山の思い出が1冊の分厚いアルバムに収まっている。 そして誰にも見せていないステラの日記。 たどたどしい文面では会ったが、1日1日が喜びや不安、時には辛かった事などといった多くの想いを綴ってある。無事生まれたらアウルやスティングにも見せてあげよう。生まれたあとも多分書き続けるだろうけれど。ステラがお腹の子どもと過ごしてきた時間は彼女が駆け抜けてきた18年間より多くの時間を生きてきたような気がした。 「ステラー」 「今、行く」 ステラは大事そうにアルバムを閉じると本棚の中へと仕舞込み、彼女を待つアウルの元へと足を向けた。 ・・・・その時。 「・・・・痛い」 お腹が張りつめ、痛みが生じるのに気付いた。 お腹が張っているのはいつもの事だけれども・・・。 しくしくする気がしたのだ。 「アウル、ちょっと待って」 「どうしたんだよ?気分悪い?」 お腹を見つめたまま動かないステラに異常を感じたアウルが彼女の元へ来た。 心配そうに顔をのぞき込んでくる彼にステラはかすれた声で、だがきっぱりとした口調でこう告げた。 「生まれる、かも・・・」 「はあっ!?」 予定より1月早く、アウステベビーは中は飽きた、外に出せと言わんばかりに。その扉を叩いたたのだった。
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