ミネルバとの戦闘は乱入してきた白い機体のおかげで痛み分けとなった。
否。
実質敗北と言っていい。
大破とまで行かなかったが俺たちの機体は3機とも撤退せざるを得なかったからだ。
白い機体には手も足も出ず、
紅い機体には翻弄され。
俺の力はこんなものかと悔しさに奥歯がギリリとなった。
必ず。
必ずこの雪辱をはらしてやる。
この命に代えても。
そう思った。


一刻も早く雪辱戦をと、俺は整備員達と共にカオスの整備に当たっていたときのことだった。




「あんなのと一緒であんたも大変だな」

機体の整備中に整備員達が顔をゆがめてそう言った。
彼等の言っている意味が分からず、俺はオウム替えしに聞き返した。

「あんなの?」
「アビスとガイアのパイロット達だよ」


その言葉に俺は怒りを覚えた。


「その言葉、取り消してください。アイツらがいるから今の俺がいるんです」


俺の剣幕に整備員達はたじたじとなって視線を泳がした。



そう。
アウルとステラがいなかったら今の俺に何が有ると言うんだ?
ただの戦うだけの戦闘マシーンだ。

・・・・いや。

今でも戦闘マシーンには違いないけれど。
守りたい物がある。
そして守る物がある限り、俺はいくらでも強くなると信じている。
例え敗北を重ねても。
そうネオも言っていたんだ。


『守る物がある者は強い』と。


守る物のない者は強いか?
俺はそう思えない。
あいつらに出会うまで俺には何もなかった。
アイツらがいたからこそ今の俺がいるんだ。









苦しみも悲しみも











「チックショー、あの白い機体何なんだよ。いきなり乱入してきやがって」


空中からスラスターを打ち抜かれて撤退せざるを得なかったアビス。


「あの白い機体、ステラのガイア、傷つけた・・・・!」


手足を切り裂かれ、蹴落とされたガイア。

あの乱入してきた機体のせいで今回唯一の白星はオレンジ色の機体だった。
ミネルバとの戦闘で突如現れた白い機体はデータで見たことがあった。
ヤキン・ドゥーエで最強とうたわれた『フリーダム』
アビスから海での自由を奪い、
ガイアから手足の自由を奪い取った機体の名は皮肉にも『自由』だった。
だが不幸中の幸いに二人とも生きて俺の前にいる。
敗北は悔しかったが、俺にとってはそれが何よりも大切なことだった。
手の掛かる弟と妹。
俺の・・・・宝物。

二人がいたからこそ今まで辛いことも乗り越えることが出来た。
3人共にいたからこそ悲しみも分かち合えてきた。

俺たちは3人で一人。
この世でたった3人。

この手がどんなに血塗られようと。
この身体がどんなに薬に蝕まれようと
アウルとステラがいれば
俺は顔を上げて、胸を張って生きていける。


迷うことなく、歩いていける。



「アビス、当分なおらないってさ。整備員どもは何やってんだよ」
「そう言うな。彼等も徹夜で頑張っていてくれる。誰のおかげで俺たちは機体を動かせていると思ってるんだ?」

むくれるアウルのくせっ毛をかき混ぜると、アウルはますますむくれてガキ扱いすんなと俺の手を振り払う。

その仕草が帰って自分を子供っぽく見せてしまっていることにアウルは気付いていない。口にしたら怒られるだろうが、俺はアウルのそんな子供っぽい所が好きで安心する。

俺等エクステンデットは戦争の中でしか生きられない。

時折見せる未来を諦めた表情は大人びていて。
アウルにはアウルの世界がある。
想いがある。
いつもの無邪気さがなりを潜め、本来のアウルが出てくるときほどアウルを遠くに感じる物はない。
そして俺は何も出来ないでいる。
それが俺はとても哀しい。
だから俺がアウルにしてやれること。
それは。


「だ・か・らっ、やめろっつーの!!」
「別にいじゃねーか、減るもんじゃねーし」

わしゃわしゃとアウルの頭を撫で続けているとそれを見ていたステラが俺たちの間に割り込んできて俺に頭を差し出してきた。


「アウルばっかりずるい。ステラも撫でて」
「はあ?」


ステラも頑張ったもんという自己主張するステラにアウルはあきれ顔だ。
俺としてはそんなステラが可愛くて仕方がない。
純粋で幼くて。
全身で喜び、全身で悲しむ。
なんの思惑も意図もなく。
孵ったばかりのひな鳥のようにひたすら信頼を寄せてくれる。
こんな俺でも役に立ってやれる。
そんなお前にどれだけ癒されたか。救われたか。


「あほっ、人の話聞いてねーくせにわりこんでくんなよ。僕はこうされて文句言ってたのっ!!」


こう、と言いながらアウルは先ほど俺がやったようにステラの頭をぐりぐりとやると
ステラは撫でられたと勘違いしたのか。
嬉しそうに笑い声をあげた。


「アウルが撫でてくれた〜〜。アウルが撫でてくれたんだよ、見て見て」


思っても見なかったステラの反応に今度はアウルが面食らう番だった。
マリンブルーの瞳をぱちぱちさせ、ステラを見やり、俺を見やった。
そして俺の口端に浮かぶ笑みに気付くと半ばヤケクソ気味にステラの頭をかき回した。


「あ〜〜、わーったよ。はいはい、よかったでちゅねーーー」
「うんっ、ステラ嬉しい!!」


ステラは満面の笑みで頷くと、今度はステラが撫でてあげるとアウルに手を伸ばす。
当然アウルは拒否。
当然ステラはそれを聞いちゃいない。


「やめれ、このバカっ!!」
「アウル、動かないで。撫でられない」


アウルとステラがじゃれ合っている。
今日の戦闘の疲労が和らいでいく。
あれほど胸に渦巻いていた悔しさが薄らいでくる。

アウルとステラのいる光景。
それは俺にとって唯一の安らぎ。


ミネルバを落とせなかったのは悔しかったけれど。
紅い機体に翻弄された自分が情けなかったけれど。

感謝しよう。
今日の戦闘で俺たちが誰一人として欠けることの無かったことを。
感謝しよう。
今日も共にいることを。
感謝しよう。
アウルとステラがここにいることを。


どんなに蔑まれようと。
他の何を亡くそうと。
どんなに敗北を期そうと。
俺は悲しくない。
苦しくない。
アイツらがいるのなら。
アイツらが笑っているのなら。
どんな苦しみも悲しみも。








3人で在る限り。









喜びへと変わるのだから。























あとがき

小説第3巻でましたね・・・・。
切なかったけれど。
悲しかったけれど。
救われました。