最近アウルに一つのブームが起きていた。 自室のベットの上で胡坐をかいて熱心に雑誌を見ていた彼はやがてあるページを見つけると口端を持ち上げて雑誌から顔を上げた。 「おい、ステラ」 その声に部屋の中央にあるテーブルで熱帯魚を眺めていた少女が振り返る。つられて傍にいたスティングも読んでいた本から顔を上げた。 「こっちこい」 ごそごそとブラシやヘアミストなどと言ったものを取り出し、手招きするアウルにステラの顔が輝く。キラキラと期待の眼差しでいそいそと彼のいるベットの元へと行き、彼の前に座った。 二人分の体重でベットがキィと音を立てて、沈む。 その様子をスティングは、またかと見守る。 そんな彼の顔にも、笑顔。 アウルはブラシとヘアミストを取り上げるとそれでステラの髪を丁寧に整え始めた。 手馴れた仕草で金の髪を梳かしつけると、今度はそれを二つに分けて結い上げて行く―― 「どーだ?」 しばらくして差し出された鏡に映る自分を見てステラが歓声を上げた。 「わぁ……可愛い……。有難う……」 ステラの頭の左右にはそれぞれ形よく結い上げられたお団子。 そう。 最近のアウルのブームはステラのヘアスタイリングだった。どこかで気に行った形を見つけるとステラで試したがる。簡単に言えばステラをおもちゃにしているわけだが、ステラも喜んでいるし、スティング自身もそれを見るのが楽しみだったりするから何の問題もない。 ウェーブがかかり、結い上げるにしては難しい長さの金髪をよくまぁそこまで見事に出来るものだな、とスティングは素直に感心した。 「大したもんじゃないか」 「まぁね」 ステラに喜ばれ、スティングにも褒められたアウルはとても嬉しそうで得意げな顔をしていた。 ステラは何度も何度も鏡を覗き込みながら、結い上げられたお団子に触れている。 「うふふ……ネオにも見せよう……また可愛いよ……って、言って、くれる……かな」 とたん、アウルの笑顔がこわばった。 その劇的な変化にステラのヤツ、地雷を踏んだな、とスティングは頭を抱えた。 ……案の定。 「おいステラ、こっちこい」 「なに……?きゃ……」 手まねきするアウルに今度は何をしてくれるんだろうと嬉しそうにそばへと来たステラだったが、せっかく可愛く結い上げられたお団子があっという間に解かれ、もとに戻されてしまった。 「アウル、どうして……?」 抗議の声を上げたステラだったけれど、アウルは不機嫌そうに睨み返すだけで。そのまま彼はベットに寝転ぶと、くるりとステラたちに背を向けてしまった。 頭上に疑問符を浮かべるステラにスティングも困った顔するしか出来なくて。アウルの機嫌が早くなおる事を祈るばかりだった。 しかしその日以降、アウルがステラのヘアスタイリングをする事はなかったという――。 なんとも残念なことだ(しみじみ) ――ネオ&スティング談。 あとがき アウル達の日常。アウルは身だしなみに気を使う子、と言うイメージがあります。ステラにうるさく言いながら何もしない(主にスティングがやる)けれど、遊びの感覚でこんな事をしたり。でもネオ、っと出るとなんでアイツを喜ばせるためにやんなきゃなんないだとへそを曲げてしまってやらなくなる。アウルは気まぐれで勝手なお子様な部分もあるんです。ステラはそんなアウルの本音に気づかないので同じような事が繰り返される要因となってます。ここまで読んでくださってありがとうございました。 |