投げかけられる視線が二つ―――。 その先が行き着く想いは同じなれど交わることなく。 届く事もなく。 ただ流れ消え行くのみ―――。 俺はそれをいつも見ていた。 何もできずにただ見ている事しか出来なかったのだけれど。 視線の先 少しだけ。 少しだけ心を開けば届いたかもしれない想いはいくつあったのだろう。 拒絶を恐れ。 喪失に怯え。 互いを傷つけあい、拒絶しあうしかできなかった、悲しい想い。俺はそんな想いを二つ、知っている。 最初の想いは2年前。 ムウ・ラ・フラガとしていたあの戦場で見たのは仲間を守るためにストライクに乗り込んだ1人の少年と大切なものを奪われ、憎しみにとらわれた少女の、悲しい想いだった。 幾つもの回り道をして、多くの想いを巻き込みながらも長い時を経てつながるはずだった想いはラウ・クルーゼという男の手によって唐突に断ち切られた。 俺はなにもできずに、ただ見ていることしかできなかった。 そして、もう一つの想い。 ムウとしてではなく、ネオとして俺は再びその光景を目にする事になるとは。何故こうも繰り返されるのだろうと今更ながら思う。 「触るな!!お前はザフトのやつのところにでも行けよ!!」 「あうる・・・・」 「お前が消えないなら僕がこの部屋から出て行く!」 「アウル!!すみません、俺、あと追いかけます」 目の前で繰り広げられていたアウルとステラのいさかい。 原因はステラのシン、という少年の話だ。その出来事が嬉しかったらしく、彼女は何かと話題にしたがり、アウルはそんな彼女にとうとう癇癪を起こしたのだ。 彼女が敵兵に助けられたのは思いも寄らぬ出来事だった。それが原因か、三人、特にアウルとステラの間に大きな亀裂ができたように思えた。何故このようになってしまったのか。 アウルの素直じゃない性格だったからなのだろうか。 アイツがステラを好いているのは俺もスティングも知っている。その証拠に視線を追ってみるといつもその先にステラがいた。 だがアイツはそれを認めたがらないし、認めようとしない。もしかしたら彼自身がその事実に気づいていないのかもしれない。 何も語らず、伝えず。 彼女の姿を無意識に探し、ただ見つめる。 幼さと年齢にそぐわない成熟さを持ち合わせた少年。 ステラはそれを知らない。 人の心に敏感だけれど恋を知るには幼すぎて。 心の機微を感じとってもどうすれば好いのか分からず、もてあます。少しずつだが、彼女に芽生えてきたものは確かにあったのだけれど。 その兆候は彼女の視線の先。 茫洋としていたはずのその目は時折意思を持ってアウルに向けられていて。 でもやはりそれをどうしたら好いのか分からずにもてあまし、彼のと絡む前に視線をはずしてしまう。 向けられている先はお互いなのに、二つの視線は結びつくことはない。 ただ流され、消えて行く。 互いに気づくことは無く。 それは幸せのことなのだろうか。 思い出を持つことなど許されない彼らにとっては。 それは不幸なことなのだろうか。 部品として生み出されたとしても、泣き、怒り、笑う彼らはやはり人間なのだから。 そんな二人を俺は悲しく思ったけれど、どうすることもできず。何もしようとも思わなかった。 俺は俺で精一杯だったせいなのかもしれない。 俺に力が無いと諦めきっていたせいなのかもしれない。 向かう想いは同じはずなのに一歩通行だった二人。 俺は彼らに何もしてやれなかった。 そう、2年前と同じ。 キラという少年とフレイという少女のときと。 お互いの視線の先に気づくことが出来ず、とうとう結ばれることが無かった哀しい想い。 俺がムウ・ラ・フラガとして記憶を取り戻して得たものは一体なんだったのだろうか。 ・・・・そう思ってしまうのはやはり失ったものの方が大きかったからだろうか。 3人共に生き抜いてきた彼らはそれぞれ1人で死んだ。 救いはステラを看取ってくれた少年がいてくれたこと。 アウルがステラが、そしてスティングが強化という足かせから開放されて自由になったこと。 そう思うのは偽善かもしれない。 それでもそう思ってしまう。 あいつらは今幸せだろうか。 紅の少年が言っていた暖かい世界に行けただろうか。 アウルとステラは互いに向けられた視線に気づけただろうか。 スティングは相変わらず二人のことで頭を悩ませているだろうか。 アウルに、ステラに、スティングに。 あの子達に伝えたい言葉がある。 もう届くことは無いだろうけれど。 俺はお前達が愛しかった。 お前達との時間は大切だった。 俺の視線の先には常にお前達がいたのだと。今度お前達が生まれてくるときは暖かくて優しい世界であるように俺は戦う。 俺はお前達に何もしてやれなかったけれど。 裏切り者とののしられたとしても仕方の無いことだけど。 愛していたよ。 愛しかったよ。 共に有りたかった。 幸せを願っていた。 アウル、お前の想いが実ることを。 ステラ、お前が想いに気づくことを。 お前達の想いが一つになることを、切に願っていた。 俺はいつもスティングとお前達を見ていたんだ。 そして俺はお前たち3人を見ていた。 いつも、いつも。 何もしてあげられなかったけれど、いつも見ていたんだよ。 あとがき 視線の先。 アウルとステラ。 実はお互いを見ていたのにお互い気づいていなかった。気づかないまま、結ばれないまま消えた想い。 それがキラとフレイと重なってネオはそれを哀しく思う。 彼もまた二人を見ていたから。 ネオの視線の先にはいつもアウルとステラ。そしてスティングがいた。 この次彼らが生まれるときはきっと・・・・という願いを込めて彼はまた武器を手にしたと思います。 そうあってほしいな。 |