光が揺れている。

ゆらゆら。
ゆらゆらと。

遠い過去に想いをはせて、たゆたうゆりかごの中でまどろんでいると。
不意にこつん、と響いた音に意識を覚醒させられた。

水草が揺れる水の向こうに見えるふたつの輝き。
それはいつものすみれ色では無く、忘れかけた故郷の色。


海の色だった。



















熱帯魚

























その蒼の持ち主である少年はあごをつきながらぼんやりとこちらを見つめていた。
特に何の感情も宿さず、ただ淡々と。
その表情に少年が見ているのはこちらでは無く、この先の遠い何かを見ているかのようにも思えた。


なにを想っているのだろうか?


「あうる?」


ふと響いた声に少年の蒼がわずかに揺らぎを見せた。
けれど彼は身じろぎ一つせず、ただ見つめ続ける。
こちらを。
この先を。


「アウル?」


すとん、という軽い音を立てて一人の少女が少年の隣に座り込むと、彼女も同じようにこちらをのぞきこんできた。
いつものすみれ色。
茫洋とした夢見るような瞳。
その輝きは少年のものと似ていたけれど、彼のは夢見るようなものでは無く。
哀しげでさえあった。


「こいつさ・・・・こんな狭いところに閉じ込められちゃって」


先ほどまでずっと押し黙っていた少年が口を開く。
哀しげなまなざしはこちらに向けられたまま。
少女の位置からでは彼の表情はきっと分からない。

だからこそ、こんな顔をするのだろうか。
この少年は。


「でも・・・・ここで無くちゃ生きられない」
「?」


少女には少年の言葉が理解できていないのだろう。
小首を傾げると、こちらに向かった微笑んだ。
少年はまだこちらを見つめたまま。
けれど身じろぎをして水槽の台の上に腕を組むと、その頭を乗せ。



「俺らと同じ」



と付け足すようにつぶやいた。


「同じ?」
「そう、同じ」
「ステラ、分からない」
「別にいーよ。わかんなくて」


分からないままの方が良いんだよ。


声にならない言葉で少年はつぶやく。
そのとき金の糸がふわりと舞い、少年の肩が揺れた。
青い軍服に影が生じる。


少年の肩に頭を預け。
少女がこちらを見つめる、彼の見ているものを見ようとして。


けれど。


彼女に見えるのは淡く照らされた水槽の人口灯。
たゆたう、水。
そして(わたし)


同じものを見ることはない。


だがそれでいい、と少年は言った。
其の方が幸せだと。





水面が揺らいだ。






最後の一人である少年が彼らを呼びに来るまで二人はただここにいた。
視線だけを水槽(こちら)に向けて。


ただ、ここにいた。















あとがき


ちょっとくらいものになってしまいましたが。
熱帯魚の視点でのアウステ。
同じものを見ていてもアウルの見えるものとステラの見えるものは異なると思う。
そしてアウルはそれで良いとも。
ここまで読んでくださってありがとうございました。