「ステラぁ、これやる」 ステラは唐突に増えたピーマンの数にまばたきをすると、自分のプレートとアウルを交互に見やった。非難のまなざしでではなく、湛えていたのはむしろ疑問の色。 「どうして?」 「いらないから」 何の面白味もない、簡単すぎる返答にステラはがっかりとした顔になった。 なにかを期待していたわけでもないのにこの落胆。でも落胆を覚えたからには何を期待していたのは確かだということ。それは何だったかは儚い泡のように一瞬にしてはじけて消え、残ったのは。 「アウルそれだけ…?」 「あ?ちっ、しゃーねーな。これもやるよ」 ありがたく思えよ、とアウルはニヤリと笑うと行儀悪くフォークで人参をぐさりと刺し、ピーマンと同じようにステラのプレートに移した。 そんなのじゃないのに。 不満が募り、ステラはぷぅと頬を膨らませる。 「ステラ、こんなに食べれない」 「だったらおまえのおかず寄越せ」 淀みのない流れでアウルは目ざとくステラのプレートからおかずをとろうとフォークをむけた。 かちん。 澄んだ音が食堂に響いた。 フォークがすんでのところでもう一つのフォークにその進路をはばまれ、アウルの目尻が見る間につり上がる。 「邪魔すんな、スティング!」 「セコい事するな、このバカ。ステラも怒っていい事だぞ?」 きょとんと二人のやり取りを見つめていたステラは急に話題をふられ、戸惑ったようにアウルを見やった。 「くれんだよなぁ、ステラっ?!」 半ば脅迫のように迫るアウル。だがステラは首を傾け、彼を見つめると。 彼の言葉を肯定するように頷いて見せた。 とたんアウルの歓喜の声とスティングのため息がもれた。 「やったー!ステラ愛してるっ!」 彼の言葉にステラの白い頬がぽっと紅く染まった。そんなステラに気づいていないアウルは彼女をかき抱くと周囲にかまわず大きな音をたて、その頬にキスした。 「おいおい」 当然周囲の視線が彼らに集中する。スティングは頭痛をおぼえ、深々と溜め息をついた。 ステラは、というと幸せいっぱいにおかずを頬張るアウルをに嬉しそうに見ていて。二人だけの世界かよとスティングは苦笑いを浮かべた。 アウルから口づけられた方の頬が熱い。 ただいらないからとをくれるのではなく。欲しかったのはステラだから、という言葉。いらないだけだったら誰にあげても変わらないから。 かの人のたった一人でありたい。 ささいのない日常の中での出来事でふと生じたわがまま。 ステラがそんな気持ちに気づくのはまだ先のこと。 今はただ幸せそうなアウルを見るのが嬉しくて幸せで。 それ以上にアウルが触れた頬が熱くてくすぐったい。 大事に大事に。 そして愛おしげに。 その頬に触れてステラは微笑んだ。 あとがき アウル←ステラ風味のアウステ。近くにやっぱりオクレ兄さんがいます。ここまで読んでくださってありがとうございました。 |