あか。

あお。

きいろ。

みどり。

オレンジ。

むらさき。

蒼い少年の傍らに転がる
色とりどりのアメが照明の光を受けて光っている。

きらきら。

キラキラと。


白い模様の入った透明のそれは
まるでガラス玉のようで
なんて綺麗なんだろうとステラはうっとりと眺めていた。







アメ






「あ?何ジロジロ見てんだよ」

先ほどからまとわりついてくる視線にいい加減うっとおしくなったアウルは見ていた雑誌から目を放すと眉間に皺を寄せ、視線の持ち主を睨み付けた。そんなアウルの向かい側に位置するベットに腰をかけて本を読んでいた兄貴分の少年はそんな事でいちいち目くじら立てんでもいいだろう、ケンカだけはしないでくれよと心配そうに彼等を見やった。だが不機嫌そうなアウルとは対照的にステラは上機嫌に彼の傍らに腰をかけて笑うと、透明のフィルムに包まれた丸いアメを一つ一つ指先で転がして見せた。

「ん。アウルのアメ、綺麗だなって。模様ついてて、ステラのビー玉と同じ」
「ビー玉は味がしないだろーが。ったく、欲しけりゃやるよ」
「本当?」
「一つだけな」

極上の笑みを浮かべるステラにすっかり怒る気を無くしたアウルがそう言うと、ステラはその愛らしい笑顔を更に輝かせた。花がそのつぼみを開いた瞬間のようなステラに満開の笑顔だなと、スティングは金の瞳を細めた。

「・・・どの色にしようかなぁ」

金の糸をゆっくりとした動作で揺らし、紅い瞳は色とりどりのアメ達の上を彷徨う。そんな少女に一つ一つの色が自分を選んでくれと言わんばかりに各々の存在を主張して光っていた。

「ステラが前に食べた赤ね、イチゴの味がしたの」
「へえ」

アウルの目は雑誌に向けられたままだが、彼がちゃんと話を聞いてくれているのをステラはちゃんと知っている。聞く気がない、もしくは聞いていないのなら彼は返事さえもしないから。

「でもその前に食べた赤はサクランボの味がしたんだよ」
「見た目は同じ赤でもアメによって違うモンだろ」
「うん。ステラ、びっくりした」

ステラは一旦言葉を切ると再びその神経をアメ達の方へと集中させた。
その中でステラの心を掴んだのは青いアメだった。
それもたった一個。
他の色は複数あったにもかかわらず、この色だけは一個しか残っていなかった。
たった一個しかなかったそれはぜひ自分をと主張するかのように蒼い少年の傍らに陣取っていた。

アウルと同じ青いアメはどんな味だろうか?
ラムネだろうか?
ソーダだろうか?

わくわくとステラの心が躍る。
上半身をアメの方へとかがめると、その体重移動で乗っていったベットが揺れ、僅かにきしんだ。そのベットの反動でアメ達がコロコロと転がってゆく。ステラは片手を付くと、手を伸ばしてたくさんあったアメの中からたった一個の青をつかみ取った。それはまるで喜んでいるかのようにステラの手の中でキラキラと光っていた。ステラは桜色の口元をほころばせると、そのアメを包むフイルムを丁寧に少しずつ剥がしていき、そして大事に、大事に口の中へと入れた。

が。
次の瞬間口の中に広がった思わぬ刺激にステラはか細い悲鳴を上げた。

「かぁらひ〜〜」
「ああ?」

口元を押さえて涙目になったステラに愕いたアウルは雑誌から目を放して彼女を見やった。

「何やってんだよ?」
「あほぉいらめ。からひの〜〜」

口にアメを入れたままでしゃべっているため言葉が掴みにくかったが、残ったアメとステラを見比べて、アウルはなるほどと合点がいった。はああと溜め息をつくと、彼はステラのおでこを軽くつついた。

「ばぁか。お前青食っただろ?ハッカ味だぞ、それ。辛いの当たり前じゃん」

青はステラが取らないよう寄せておいたんだけどとアウルはつぶやいたが、口にブリザードを抱えているステラはそれどころではなかった。アウルは再度溜め息をつくと、彼女の前に手を出した。

「ほら、出せよ」

だがステラは口を押さえたまま首を横に振って出そうとしない。自分の言う事を聞けないのかとアウルが、顔の筋肉を緊張さた。

「いーかげんに・・」
「あふるかりゃもりゃったんだもの。やら」

せっかくアウルからもらったアメなのに出したくない。

そんなステラの言葉にアウルは気恥ずかしくなって頬を紅潮させた。こんなふうに彼女は無意識のうちに彼の心を捉えて放さない。ホント、ずるいヤツとアウルはどこか寂しさを湛えた蒼い瞳で彼女を見つめた。でもそれはほんの一瞬の事で。すぐに元のアウルに戻ると緑のアメを取りだした。

「ほれ。もう一個やっから。これなら甘いから食えるだろぉ?」
「ひひろ?」
「ああ。だから出せって」

今度は素直にステラはアウルの手の平にアメを出した。一回り小さくはなっていたが、まだそれは大きくて、ステラがこれを舐めきるまでには舌を麻痺させてしまっただろう。アウルはやれやれと本日3度目の溜め息をついた。

「緑のアメ。スティングの色」
「だろ?これでお前は俺等と同じ色のアメ食った事になるな」
「うん。ステラ達と同じ色。3人一緒」

嬉しい事言ってくれるじゃねえかと聞き耳を立てていたスティングはたまらず口元をほころばせた。彼等に聞いていた事がばれないよう、口元を本で隠して。
ステラが緑のアメを口に入れるのを見届けると、アウルも手の平のアメを口にほおりこんだ。アメで少しべたついた手の平を舌を出してぺろりとなめ取る。青いアメに僅かに残っていたステラの体温はやがてアウルの体温に変わってゆく。彼の目の前では満面の笑みを浮かべたステラが懸命にアメを口の中で転がしていた。
何も思わないで。
何も気付かないでやってるんだろうなぁ、お前は。
ホントずるいヤツ。
だから僕も気付かないふりしてやるよ。
どっちかが折れるまでの我慢比べ。

涼しげな口の中とは裏腹に熱くなってゆく胸の内を押さえようとアウルは蒼い双眸を閉じた。







あとがき

ステラは無意識のうちにアウルの心をとらえて放さないけれど。
彼女はそれを自覚しておらず、気付いてもいない。
アウルはそれが寂しく思うもののやはり彼女が愛しいんです。
でもプライドが高いからそれを彼女に気付かれないようにとあがく。
・・・悪循環。
この我慢比べ、最初から勝負決まっているような気が・・・。



ここまで読んでくださって有り難うございましたv