■年末突発SP



 除夜の鐘は大晦日と年明けの夜に鳴らされる鐘。
その数は108つ。
まぁ、常識だろう。
ところが最近出没した狐の悪さとかで住職以外の坊主たちは体調を崩したらしく、
今夜の鐘のつき手がいないという事だ。
・・・・実際は広島産のカキを食べ過ぎてハラを壊したのが真相だ。


『な、なんの事かね?』

平静を装いながら坊主の視線は宙を泳ぎ、冷や汗をだらだら流し始めている。
この期に及んで悪あがきとはいい根性だ。
その図太さだからこそ、この住職はただ一人平気だったなのだろう。
彼の図太さに敬意を払ってとことん利用させてもらおう。
ほかの坊主たちが体調を悪くしているのもチャンスだ。
無礼講上等大晦日補完計画の会場としてやろう。
ここで羽目をはずして何をやらかそうと文句を言われないように住職を脅すネタはいくらでもある。
にぎやかな年越しをギルにすごしてもらうために・・・・!


『ふ・・・・。つまらん駄洒落を言っても無駄だ。
檀家の一人からもらった大量の高級カキを近所に配るのが惜しくて欲張ったのだろう』
『ひ・・・・な、なぜそれを・・・・』
『壁に耳あり。障子に目あり。邪の道は蛇というだろう?』


訳が分からんというように口をぽかんと開ける坊主の顔ときたら・・・・。
なんと間抜けな顔だ。
それでも仏の道を説く者の顔だろうか?
アウルのほうがまだ賢い顔をしているぞ。


『簡単に言うと情報はいつどこで漏れているか分からないということだ』
『おおっ、なるほど!!』


ぽんと手をたたいて納得する坊主にこいつはバカだと確信する。計画がますますやりやすくなった。



「・・・・というわけでお前たちには寺の坊主たちに代わって鐘を108つついてもらうことにした」


俺は計画を実行させるべく呼び出したおなじみのメンバーたち。日も落ち、刺すような冷たさの中、友人の俺を思ってやって来てくれた。


「・・・・寒い」
「一大事って言ってたのに何よ、それ」
「このクソ寒い夜に呼びつけた思ったらそれか。ざけんな」
「レイ・・・・俺はお前が何を言いたいのか分からないよ・・・・と
いうか分かりたくないんですけど」
「いーちぬーけたっ」
「実家に帰らせていただきます」

台詞順にステラ・ルナマリア・アウル・シン・ヴィーノ、そしてヨウラン。皆口々に何を言っているらしいが、俺は風が強くて聞こえないことにした。


「メンバーは俺を含めて7人・・・・・。一人当たり約17回つけばいいのだ。簡単だろう?」
「・・・・強引にでも進める気だな、ありゃ」
「人権無視。聞く耳なし!!だね、ヨウラン」
「ああなったレイは誰にも止められないわ」
「あいつが暴走したら止めるのはお前の役目だろーが!!ぜってー面白がってるだろ、てめーはっ!!」
「怖い、怖すぎるぅっ。気をつけよう、夜道と暴走レイっ」
「夜道・・・・?・・・・ぼうそう・・・・・?」


皆は快く承知してくれたようだ。
やはり日頃の俺の行動の賜物だろう。


「あのぅ、やっぱりほかの人を頼みますので・・・・」
「遠慮するな。それとも」


貴様が檀家から巻き上げた金で私服を肥やしていることをバラされたいのか?
顔色を悪くして余計なことを言ってきた坊主はうるさいので脅し文句を使って問答無用で黙らせた。
ちなみにこれは張ったりではない。
墓石類をごまかしたり、墓地の土地をケチったりしている証拠もつかんである。
情報をなめるな。


寒い中ただ立って待つのも時間の無駄であったから皆は時間まで寺に上がりこんで待つことにした。


「でもテレビだけでしょ〜〜〜あ、変なビデオ見っけ」
「・・・・?これ、なんのビデオ・・・・?」


テレビの設置してある居間でルナマリアとステラがテレビ台の中で見つけたのは複数のDVDだった。

『奥さんは不感症』
『痴漢電車』


などなどいかがわしいものばかりだ。
つまらん。
もっと興味深いものかと思ったのだがな。
たとえば世界征服のための第一歩とか。
金はいかにして巻き上げるか。
いかにも俗物まみれな、そんなものだと。


「・・・・そんなモン誰が見るんだよ」






さて時間もだいぶ過ぎたとき、われらがメンバーは
年越しそばが食いたいと言い出した。
まずいな・・・・。
その準備をすっかり忘れていた。
ギルもそろそろ来るはずなのに・・・・。
そこへ大きな音を立ててピンクのバンが本堂に突っ込んできた。
悲鳴を上げる住職。
皆は何事かわらわらと庭のほうへと向かうと、
バンのスラードドアが勢いよくあき、おなじみの顔が姿を見せた。


「アウル〜〜〜ステラ〜〜〜シン〜〜〜、年越しそば!!」


アウルの兄貴分、スティングと。


「年越しそば隊、参・上!!」


緋色頭のクロト・ブエル。


「お祭りですね!!」


余計すぎるおまけ、喜色満面のムルタ・アズラエル。


「・・・おぇっぷ・・・・なんつー運転・・・・!!」


スティングの双子の兄貴と間違えるほど似ているオルガ・サブナック。
乱暴すぎる運転によってしまったらしい。


「こ〜〜ん〜〜ば〜〜ん〜〜は」


寺が思いのほかに似合う、シャニ・アンドラス。
そして助手席から姿を見せたのは。


「やぁ、待たせたね」
「ギル!!」


まさか彼らと一緒に来てくれるとは思わなかったから嬉しくて嬉しくて。
気がついたら人目をはばからずギルに飛びついてしまったけれど、ギルは喜んでそんな俺を受け止めてくれて、頭をなでてくれた。

「なんか邪魔したら悪い気がする」
「分かってるじゃないか」
「理事長・・・・お父さん・・・・?」
「みたいだねー。びっくりだよ、俺」
「初耳だな。レイのやつ」
「しっ。ないしょよ?」


外の空気はとても冷たかったけれど。
ギルはとても暖かくてその冷たさなどまるで気にならなかった。

「あの、運転してきた俺の紹介は?」
「あ、ネオ!」
「あなたなんて運転手Aでじゅーぶんですっ」
「う、運転手A・・・・ひっでぇ・・・・・」
「それより年越しソバ作るぞ!!」


そして皆は皆でうなだれる仮面男にかまわず、
皆はバンから荷物を出し始めて年越しの準備を始めていた。


「おおーーーーっ!!」
「とーさんより年越しソバか・・・・・」
「たべないなら・・・いーーんだよ?」

いじけるネオ・ロアノークにシャニ・アンドラスの無情な言葉。


「誰もそんなこと言っていないだろう!!」


準備は着々と進みつつある。
ここは一つ。
俺は住職を手招きして、彼にささやいた。


「檀家からもらっている酒とかあるだろう。それも相当の数がな」
「あんた、何でうちの台所事情に詳しいんですか?」
「邪の道は蛇。聖職者が酒などかっ食らっていいのか?」
「あんた、鬼や・・・・・」


住職の渋い顔を無視し、さっさと酒を出させ、宴会はスタートした。


「鐘つきがあるから飲みすぎるなよ」
「酒は飲んでも飲まれるなってね」
「あ、これおいしい〜〜〜」
「ルナ、人の取るなよ!!」
「何独り占めしてんのよ!あんたのじゃないでしょー!!」
「いや、それ俺のコップ・・・・」


スティング・オークレーとオルガ・サブナックが注意喚起する中、
すでに酔いの兆しを見せているルナマリア。困っているシン。

「スースー」
「なんだよ、人の膝の上で寝やがって」
「俺、代わる・・・・」
「だめ!!」
「ちぇ・・・・・」
「あ〜あ、風邪引くよ?とりあえず毛布」
「サンキュー、クロト!!」


アウルの膝で眠ってしまったステラ。
ステラにクロト・ブエルがどこから持ってきた毛布を受け取り、
シャニ・アンドラスがそっと彼女にかけてやっていた。


「ヴィーノでーす!!」
「ヨウランです」
「「二人そろって凸凹ぶらざーず!!」」
「・・・・誰も聞いていないな」
「うわーーーへこむーー!!これが本当の凹み?なーんちゃって!!」
「わははははは!いいぞ、いいぞー!!」
「アンコールですっ!!」

すでに顔の赤いヨウランとヴィーノが漫才を始め、
アズラエル理事とロアノーク先生がはやし立てている。


「レイ」

ふと差し出された年越しソバ。
顔を上げるとギルが俺を見下ろしていて。
気づくと年越しそばを配り始めていた。
酔いが回っていたものも酔いを醒まし始めていて、鐘つきだと張り切っていた。

「ギル・・・・」
「全員参加だからね、一人何回くらいつけばいいのかな」
「ギルも・・・・?」
「意外かね?私だってここに来たからには参加したい」

珍しく幼い笑みを浮かべたギル。
彼はこのような楽しい年末は初めてだと言ってくれ。

「いつも仕事ばかりで寂しい思いをさせてすまないな」
「俺はそんなことありません」

ギルは時間があるときは傍にいてくれた。
今日だって忙しかったのに無理やり時間を作ってくれた。
それ以上何を望むというのだろう、俺は?
そういうとギルはそうか、とまた微笑んだ。

「寂しくないのは彼らがいるからでもあるだろう?」

ギルの視線を追うと、にぎやかにソバを食している面々が見えた。
そんな彼らの間からルナマリアがやってきて俺の手を引っ張る。

「何二人でひそひそ話しているのよ?」
「・・・・いやぁ、今秘密の相談でね」
「今度は何を計画中です?あたし、協力しますよ?」
「はは、決まったら教えるよ」
「きっとですよ!!ほら、レイも、理事長も!!」

早く来いよーと呼びかけるアウルたちの声も聞こえる。
ギルのほうに視線を向けると、彼も笑い返してくれて。

「今、行く」

俺たちはそろって仲間の待つ、輪の中に入っていた。
今年の最後は皆の鐘突きで締めくくろう。
そして来年も皆でがんばろう。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。







年末年始に訪れてくださってありがとうございます。
レイ視点のシード学園。来年も彼らをよろしくお願いします。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。



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