春の陽光より力強く、夏の日差しより穏やかな初夏の陽気が上から降り注いでいる。

 ひんやりとしたの風が若葉の上を渡って爽やかに吹き。

 露を含んだクローバーの緑が揺れた。

 淡い緑の匂い、そしてシロツメクサの甘い香りが風に入り混じって鼻腔をくすぐってくる。その香りを胸一杯吸い込み、ステラは傍らに座る少年の作業を見ていた。
 淡い空の色を持つ少年はクローバー畑の中で一つの作業に没頭していていて見つめてくるステラの視線に気づかないくらい熱心に手を動かしている。

 そんな彼の傍らには摘み取ったシロツメクサの束が転がっていて。

 白く、繊細な指先によってそれが幾重に幾重にも重ねられ、根気よく編みこまれてゆく。徐々に厚みを増し、ある一つの形を作っていくその過程をステラは魅せられたようにじっと見つめていた。

 風と風に揺れる物音以外、音はなりを潜め、時間だけがゆっくりと流れてゆく。ゆっくり、たおやかに。


「・・・・出来た・・・・・」


 どれくらいの間をそうしていたのだろうか。
 少年の唇からはっとと息が吐き出された。
 短い、だけど強い息吹。

 それを合図に再び時間がいつものように動き出す。

 少年は顔を上げると得意げに出来上がったものをステラの前に掲げてみせた。彼の手元にはシロツメクサの花冠、白い花と緑が彩りよくいりまじった、それは見事なものだった。


「おねーちゃん、できたぜ」


 姉、と呼ばれたステラがその響きにくすぐったさを覚えてクスクスと笑うと、少年は不満そうに口元をへの文字に曲げた。


「何だよ、そう呼べっつったの、おまえだろ」
「うん・・・・くすぐったい・・・・」


 ステラが嬉しそうにうなずくと、少年は諦めたようにため息をつき、花冠を彼女に差し出した。


「ほら、頭にのせてやるよ」
「うん……ありがとう、アウル」
「はいはい、どーいたしまして」


 ステラがアウルの前に頭を差し出すと、彼はその金の髪の上に花冠をそっと載せた。

 ふわりと漂った、花と緑の香りにステラはそのすみれ色の瞳を細める。

 起き直って、誇らしげにアウルを見やると、彼もまた嬉しそうにうなずいた。


「似合うよ」
「うん……」


 アウルが傍に身を寄せてステラの頬に唇を寄せると、彼女もその口付けを受けようと頬を差し出す。

 軽く唇が触れ、また離れた。

 ステラが幸せ一杯に笑う。
 そしてそんな彼女を照れくさそうに見つめるアウルも、また。




------風がまた、吹いた。



































  伝えたい


 伝えられない


     想い、 

 
   あなた


       に
       
     

























 事の起こりは前日のトランプを使った神経衰弱だった。



 夕食を終え、ステラたちはいつものように自室に引っ込んだ。
 スティングは机で報告書の作成、ステラは彼らの部屋に持ち込んだ水槽の前にいて、アウルは退屈そうにベットに寝そべっていた。
 いつもはスティングに相手をしてもらっていたアウルだったが、その夜のスティングは報告書の作成で忙しかった。
 その報告書にはアウルの分も当然、含まれていることからスティングにちょっかいを出すわけにいかず、そこでゲームの相手として同じように暇そうにしていたステラに白羽の矢があったのだ。


「負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ、聞く」


 水槽の熱帯魚を眺めていたところをアウルに神経衰弱をやろうと話を持ちかけられたステラは他にやる事はなかったし、アウルの出した条件に異を唱える理由も無かったので、黙ってうなずいた。アウルはもう勝つつもりでいたのか、ニヤニヤとしていた。
 その一方、特に考える事もなく、ステラがあっさりと了承してしまったので、割って入るタイミングを逃してしまったスティングが机から困ったような視線を投げかけてきていたのだが、二人にあっさりと流されてしまっていた。


 そしてその結果。


「うっそ。僕の負けぇ?」


 ゲームが終了するとアウルが悲痛な声を上げた。
 ステラが最後の一組を取ったあと、カードの組数を数えてみると彼女のがアウルのをうわまわっていた。

 わずかな差ではあったが、勝ちは勝ち。

 
「馬鹿ステラに負けるなんて」


 アウルはふてくされた顔で胡坐をかくと、ステラに望みを言うようにあごで促した。ステラは自分の勝ちが嬉しくしかたなくて、口元の緩みを抑える事が出来なかった。

------望みはもう決まっていた。

 前々からアウルに望んでいた事があったのだから。
 自分の望みそのままというわけには行かないけれど、それでも十分叶えられる。少し考えたあと、ステラが出した望みは。


『明日一日、アウルがステラの弟になる事』


 その望みを聞いたアウルはあごが外れるくらい、ぽかんと口をあけ、スティングはおかしさのあまり机から転げ落ち、腹を抱えて床をゴロゴロ転がりまわっていた。
 我に返ったアウルが口元をピクピクと引くつかせてにこやかに笑うステラの方へと向き直る。心なしか彼の声も震えていた。


「お前は姉貴と呼べと?」
「ううん、おねーちゃん、がいい」


 とたん、背後でスティングの爆笑が起こった。
 アウルは大またでスティングのほうへと歩いて行くと、これでもかというほど蹴り付けたあと、再びステラのほうへと戻ってきた。彼のマリンブルーには止めてくれ、と懇願する色が浮かんでいた。


「……マジ?お前、本っ気!!で言ってるの?冗談だよな?!」


 冗談であってくれという必死な想いをこめて自分の意思を再確認してきたがステラは嬉しそうに首を横に振る。


 返事は否定。それも揺るぎの無い、ノー。
 弟役、確定。


 自分から言い出した条件だけに今更それを引っ込めるわけには行かない。あきらめたように肩を落すと、アウルはしぶしぶ了承した。
 -----明日一日の我慢だと自分に言い聞かせながら。



 次の日、二人は外へと遊びに出た。
 外、と言っても今滞在している基地はどこ見ても海と山しかない、辺鄙なところにあって。
 そう遠くに行くなとも言われていたから彼らは近くの丘に出た。
 何時もなら海なのだが、海は飽きたとアウルが山の方を提案してきたから。


「おねーちゃんは僕のお願い聞いてくれるよねぇ?」


 甘えた声でそういわれると逆らえなくて、二つ返事でステラは了承した。喜んだアウルがその丘で編んでくれたのがさっきの花冠だった。


「あっちの木までだーっしゅ!!」


 アウルの掛け声で二人で一緒に丘を走り回り、なだらかな丘を転がった。あとから丘を滑り降りてきたステラをアウルがしっかりと受け止め。
 彼女を腕の中に収めたままの格好で、緑のじゅうたんの上に転がった。草が飛び散る中でアウルとステラが無邪気な笑い声を上げる。


「あはははっ、おねーちゃん、頭に草一杯ついてるよ。取ったげる」
「ありがと…」
「すわって、すわって」


 丘を転げまわった拍子にステラから外れた花冠を拾い上げると、アウルは自分の座る隣をぽんぽんと叩いて彼女の座る場所を示した。素直に座ると、アウルは鼻歌交じりにステラの髪に絡まった草を取ってゆく。
 
 時には丁寧に髪をなで付けながら、優しく、優しく。

 ステラはその心地よさにうっとりと身を任せながら、風の音を聞いていた。

 何時もなら海が良いと思うステラだったけれど、はしゃぐアウルにここに来てよかったと、嬉しくなった。

 そしてここには海と違った心地よさがあったから。

 太陽を浴びた草の感触は暖かくて、柔らかい。丘に立ち込める青々しさと甘さの混じった香りがとても心地よかった。


「おねーちゃん、膝枕してくんない?」
「膝枕・・・・?いいよ・・・・?」


 最後の一本をとり終えると、アウルが甘えた声でステラに擦り寄ってきた。ステラがうなずくと、早速とアウルは頭を膝に預けてきた。
 弟の役柄になりきっているのか、今日のアウルは無防備で甘えん坊だった。いつもの冷めた、鋭利な刃物のようなところはどこにもなくて全身でステラに甘えてくる。
 彼の言葉遣いでさえ幼く響く。
 静かな寝息を立て始めたアウルの髪をすいてあげながらステラはハミングをはじめた。
 歌詞など無い。
 記憶に残っている旋律だけを口ずさむ。
 空白の多い記憶の中で残っているもの。

 歌。
 アウル。
 スティング。
 ネオ。
 宇宙(そら)に消えたあの人(シャニ)たち。
 そして。


「……」


 アウルの記憶から封じ込められた一つの存在をつぶやく。
 アウルと同じ青を持っていた存在の名を。
 彼に聞こえないように。

 自分は「彼女」になれないだろうかと、何時も思っていた。
 アウルを包み込める存在になれまいかと。
 そうすればアウルも寂しがらないだろうし、遠くに行ってしまわないだろうと。
 
 ……けれどどうすれば良いのか分からなくて……何も出来ない自分がもどかしかった。


『守る』


 顔も覚えていない、誰からか教えてもらった言葉をつぶやいた。


「おねーちゃん……」


 気づくとアウルが自分を見上げていた。


「どうしたの…?」
「かえろ…?」


 気がつくと日が傾き始めていた。
 霞のかかったマリンブルーはまだ夢見ごこちのようで声は眠たげにかすれていた。膝に頬をこすりつけるアウルの頭をなでてやりながらステラはうなずいた。


「帰ったら……・一緒に……お風呂、はいろ……?」
「?うん」


 ステラの膝の上から起き上がると、まだ弟のままのアウルは小首をかしげた。共にお風呂に入るのはいつもの事だから何を改まって言う必要があるのだろうかと。そう言いたげな眼差しを向けて。


「おねーちゃんが、アウル、洗って、上げる」


 そんなアウルを愛おしくてたまらないと、ステラは彼を硬く抱きしめた。















「やっぱ、せまっ」


 お風呂場に入るなりアウルがぼやいた。
 私室の風呂場はコンパクトで、本来ならば個人用だ。
 何時もなら大浴場で入っているのだから彼が狭いと感じるのも無理は無い。


「アウル、座って?ステラが背中洗ってあげる」


 恥じらいも無く、一糸まとわぬ姿になった二人は体を軽く流したあと、ステラはスポンジを取り出すとアウルに背中を向けさせた。


「わかった」


 しっとりと水を含んだ蒼い毛先からぽたぽたと雫が落ちる。
 いつもは重力に逆らっている跳ねっ毛は含んだ水の重さで垂れ下がっていて、そのせいか彼の風貌は幼く見え、彼の従順さと相まってステラの母性をくすぐる。そしてそんなアウルに胸の高鳴りさえ覚えて、こうして一緒に風呂に入っているのが気恥ずかしくさえ感じられた。
 火照る頬をごまかし、石鹸を泡立てるとスポンジをアウルの白い背中に当てた。背中全体を満遍なく、丁寧にこすってゆく。

 とても男のだと思えないほど、白く、きめ細かな肌。

 背中を流してやりながら指先で撫でると、アウルの体が跳ね上がった。


「おねーちゃん、くすぐったい」


 と、クスクス笑う。
 そんなアウルがあまりにも可愛いくて、ステラは思わずそのまま抱きしめてしまったほどだった。


「アウル、可愛い……」
「可愛いゆーなっ。僕、男だぞっ?」


 さすがに可愛い、を連呼されるのがいやなのか、アウルが顔をしかめた。同時に今の体勢に気づいたのか、頬を真っ赤に染めた。


「あのさ……おねーちゃん、胸当たってる……」
「?」


 風呂場という事で二人は当然裸だ。
 そのまま抱きしめられた、という事はステラの豊かな胸がじかに密着しているという事。

 アウルも普段から一見なんでもない事に恥ずかしがったりする傾向があるのだが、彼いわく、シたいと思っていないときにそういう無防備な事をやられると恥ずかしいそうである。
 要するに心持の違い、である。
 それは彼自身がそう感じている事なのでスティングはもちろん、ステラも一向にそれを理解できないでいる。


「やば……すっげぇ痛い」


 途方にくれた声で前のめりにうずくまるアウルが心配になったステラは背中から彼の顔を覗き込んだ。


「痛い……?アウル、どこか痛いの?」
「いや、これは少し待てば治るから……たぶん」


 あいも変わらず前のめりになりながら首を振るアウルをいぶかしく思ったステラは彼が前を懸命に抑えている事に気づくとその手をどかそうとする。


「アウル……手、どかして……?前、隠してどうしたの……?」
「いや、良いからっ。ちょ……っ、やめ……っ」


 一向に見せようとしないアウルに痺れをきらせたステラは彼が反応するよりも早く、彼の前に回りこんだ。立場の弱くなっているアウルの手をどかすと元気に立ち上がるアウル自身に目の辺りにして、驚きに目をパチパチさせた。
 しばらく見つめていたが、おもむろに手を伸ばすと、熱を持ったアウル自身に指を這わせた。


「あ……っ」


 自分の先っぽをなで回す感触にアウルは小さく声を上げると身を跳ね上がらせた。はちきれんばかりに膨張を起こしている自分自身に触れられたのである。とうぜんの反応だろう。


「撫でれば治る……?」


 ステラはそんな彼の気持ちを知る由も無く、大きく硬くなったアウル自身を撫でながら珍しそうに見つめる。
 見慣れているとはいえ、彼女にとって珍しい事には変わりなく、こうやって間近にまじまじに見つめた事は無かった。


「……ねぇ」
「う?」


 鼻にかかった甘い声に顔を上げると、アウルの目と視線がかち合う。
 熱に浮かされたかのようにアウルの碧眼は潤んでいた。


「熱くてたまらないんだ。おねーちゃん、シてよ」
「そうすれば、治る……?」
「……ん」


 アウルの要求にステラはすみれ色を大きく瞬かせた。
 彼の望みは分かっているのだけれど、熱いというのにそれで何故治るのか
わからなかったから。
 でも本人の体の事は本人がよく知っているのだろうと結論付けるとステラはうなずいた。


「分かった」
「スッゲー簡単……」


 頭上でボソリと聞こえた声。
 笑いを押し隠すような、含みのあるアウルの声ににステラは顔を上げた。


「なに?」
「なんでもない……よ?」


 目が合うと、アウルは慌てたように微笑んだ。

 どうしたのだろうか。

 そう思いはしたもの、アウルは曖昧に笑うだけで。
 それより早く彼を楽にさせてあげようとステラは膝をつくとためらい無く、アウル自身をほおばった。
 かたくなっているアウル自身を舌先でれろれろと丁寧になぞりあげていった。裏も満遍なく舐め上げ、音を立てて竿に吸いつく。
 熱を持ったそれはさらに熱を帯び、熱く脈を打ちはじめた。
 何度も舌を上下させ、ちろちろと先端にも舌を這わすと、アウルの体が大きく震え、彼から甘い声が漏れ出た。
 目線だけ上げると、切なげに眉をひそめて天井を見上げるアウルが見えて。


「だいじょう……ぶ?」
「ん……すごくいい……」


 潤んだ目で快楽を訴えてくる嬉しくなったステラは愛撫に神経を集中させた。とろりと溢れた先走りをなめとりながら再びアウル自身をほおばると口元をすぼめて根元からちゅるちゅると吸い上げる。溢れた唾液があごを伝って落ちてゆく。

 きゅうと頭を鷲づかみ、アウルが声を絶えているのがわかる。

 そんな彼が可愛くて愛おしさが募って行く。
 空いた片方の手でアウルの腰骨を優しくなぞると、びくりと震える体。


「ステラ……」
「あうる?」


 アウルしなやかな腕がステラを彼自身から引き離した。
 せっかくのところを中断され、ステラはやや不機嫌な面持ちで顔を上げると、代わりにアウルの熱い唇が降ってきた。
 目元から頬に、そして唇に。
 唇を押し付けるとついばむようなキスのあと、唇を割ってアウルの舌が入ってくる。歯茎をなぞり、アウルの熱い舌がステラのを絡めとって吸った。


「ンンッ……んん」
「……ふ……ん……っ」


 驚きでステラは大きく目を見開いて、押しのけようとしたが、アウルの力強い抱擁はびくともしない。そのまま深く深く口付けられる。
 何度も角度を変えて唇を強引に愛撫する口付けにステラはやがて力を失いされるがまま、うっとりとその恍惚感に身をゆだねた。

 自分を包み込む、濡れた体温。
 背中に回される繊細な腕。
 水のにおいが混じったアウルの匂い。
 アウルが、近い。
 それら全てが心地よくて、ステラを安心させる。


「はぁ……ん……っ」


 ねっとりと首筋を這う舌にステラはたまらず声を上げた。
 それはゆっくりと下を降りてゆき、硬くなった胸の突起を転がす。
 ステラの桜色の唇から熱い息がもれ、じんわりと秘所が熱を帯びてくる。アウルの手はステラの乳房を円をえがくように揉みながら音を立ててすった。その大きな音に恥ずかしくなったステラは身をよじってアウルから離れようとしたが、がっちりと押さえ込まれて動けず、アウルに懇願の眼差しを向けた。


「はずかしい……よ」
「そう?」


 くぐもくった笑い声がしたかと思うと、軽く歯を立てられ、身体が跳ね上がる。唇で執拗にしゃぶられ、声をこらえきれずに高くあえいだ。


「あ、あぁ……あんっ、ひぃあ……っ」


 くすぐったいけれど、頭の芯をしびれさえる甘い感覚にステラの足のつま先が反り返る。ぴちゃぴちゃと胸を舐って動く蒼い頭をかき抱いて、掻き混ぜた。
 アウルはクスクス笑いながら胸を愛撫する手を止めずに空いた手でステラの秘所へと手を伸ばした。
 濡れそぼった花弁をそっと撫でると、面白いようにステラの体が跳ね上がる。指でスリットを押し開くととろりとした透明の蜜があふれ出てアウルの指を濡らす。


「あ、あんっ」


 いきなり指を二本突き入れられ、その異物感に驚き、ステラはアウルにしがみついた。同時に入れられた指をきつく締め付ける。


「早速締め付けてる。飢えてンの?」
「ち…ちがう……」


 揶揄を含むアウルの口調に首を激しく振ったとたん、中を激しく突き上げられてステラは仰のいて大きく息を吐き出した。


「……は…っあ、あっ」
「そうかなぁ、ぐっちょぐっちょだぜ、ここ……」
「だ…だめ…ぇっ……!!ああ……っあああん!!」

 膨らんだ花芽をつかまれ、ステラは背中をそらす。
 同時に秘所からどろり……あふれ出る蜜。
 ぐちゅぐちゅと響く淫靡な音。
 ステラが快楽に酔っている間もアウルの指は休むことなく、内壁をさすり、敏感な部分を探し当てては突き上げる。とどまることなくステラから溢れてくる蜜は彼女自身ではなくアウルをも濡らしていった。


「アウル……アウル……っ」


 頭の中が真っ白になって行く。
 ずるりと中から引き抜かれた感触に身を震わせた。
 ぼんやりとした頭の中でアウルにタイルの上に押し倒され、床の冷たさに小さく悲鳴を上げて我へと返った。


「……」


 アウルはステラの唇を噛みつくようにむさぼると、首筋にきつく吸い付いて、紅い痕を残して行く。
 徐々に唇を滑らせて行き、また一つ、また一つと。
 其のたびにちりと焼け付くような痛みを感じながら、ステラはアウルの愛撫に身をゆだねた。
 嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ち。
 ステラ自身もアウルに付けてみたいと何度吸い付いてみた事はあったけれど、うまくつけられなくてアウルに笑われて。
 悔し紛れに歯を立てたら、


「歯型ぁ?・・・・それでもいいか」


 とまた笑われた。
 怖い、と思うような笑みではなくて、アウルが純粋に笑ってくれる時はほっとする。そういう時はどんな事でもしてやりたい・・・・という気持ちで一杯になる。


 アウルは……今のアウルは、どう。なのかな……?


 痛いと言っていたところは大丈夫なのかとステラが夢見心地に考えていると、太腿をはう舌に現実へとひき戻された。
  つ・・・・と内股を撫でる濡れた舌先。
 溢れて伝った蜜のあとをたどってゆっくりと舌先を上下させながら上へと這い上がってくる感触。
 ステラの背中がぞくりと震えた。


「あうっ……」


 花弁にたどり着いた舌先がスリットをちろちろと撫でた。
 たまらなくなったステラの手は何かをつかむものを探して宙をつかむ。


「ステラ」


 アウルの手が伸びてきて軽くその手を握ってきた。
 顔を揚げるとアウルが足の間から顔を上げて微笑んでいて。
 ステラが安堵した顔を見せると、再び愛撫に戻っていった。
 アウルはステラの足を抱えると左右に広げ、花芯を吸い上げた。


「ひ……っ」


 その強烈な快楽にたまらずステラはのけぞり、白い喉をヒクつかせた。
 豊満な胸がたわむ。
 アウルの熱い舌は襞をさすりながら、さらに中へともぐりこませていった。
 水音とは違う、ぴちゃぴちゃと濡れた音。


「ここもどうかな・・・・?」


 指が花弁を押し開く感触と一緒にひやりと無防備な部分が外気にさらされるそのつめたさ、そして降りかかるアウルの熱い吐息にステラは白い身を震わせた。ぎゅう・・・・と自分を抱きしめて目をつぶる。


「あは……っ充血してぷっくりしてるぜ、ここ」
「いや……っ……ああ・・・っああ……」


 ねっとりとした舌先が蜜にまみれた花芽を押しつぶし、ころころと執拗にころがす。あまりの快楽にステラの頭の中で火花が散った。


「あっ!あ……はあぁ……あう……る……」
「こぉんなに充血させてさ……やらしい……今、スッゲー溢れたの分かった?」


 舌を這わす卑猥なおと、そして中を引っ掻き回される感触に頭が真っ白になって行く。少しずつ甘い痺れが競りあがって脳髄を溶かして行く。
 しっとりと汗ばむ体。
 甘い声を漏らしながらステラは無意識にアウルの頭を太腿ではさみ、快楽の元を追って腰をくねらせた。


「あ……ん、あん……もっと……」
「ん……むぅ……そう急くなよ」


 つ……と唇から蜜とも唾液といえる銀の糸を引いてアウルが離れた。
 ステラの秘所は熱を帯びて物足りなさに痛いほど疼いていているというのに。


「アウル……ひぃあ……つ」


 快楽を求めて目を潤ませるステラの耳元を軽く舐め上げると、アウルはそっとささやく。


「イキたい?」


 余裕なくコクコクと首を振るステラにアウルは忍び笑いを漏らした。少し前までの従順そうな顔は跡形も消え、ステラをいじめる時と同じ顔で低く笑う。
 その変化に不安を覚えながらもステラは彼を求めずに入られなくて、必死に彼にしがみついた。アウルの頬に手を添えると、自分から唇を押し当て、彼の舌にむしゃぶりついた。


「あむ……んん……ふう……っ……」
「はぁ……あ……むっ……ステラ……」


 互いの舌を吸いあって咥内を舐めまわす。無意識のうちに互いの体を押し付け、腰を擦り付けあった。何度も角度を変えて唇をむさぼりあったあと、名残惜しげに離した唇からどちらのとも分からない唾液がこぼれた。
 だが、胸を荒く上下させるステラと異なり、アウルはまだ余裕の笑みを浮かべていた。


「欲しければさ……自分で来いよ」
「え……」


 戸惑いを見せるステラにアウルは笑みを深くする。
 ステラの反応を楽しむかのように口端をもたげて。


「僕はお前の弟役だろ?ちゃんと言う事聞くぜ?」


 さっきまでは確かにアウルだったのに今度は弟に立ち返るという彼に不満げな顔でステラは黙りこくった。
 アウルは自分の都合ばかりでまるでステラ自身が遊ばれているかのよう。
 ……実際そうなのだと、彼女は分かってはいたけれど。


「どーすんの?お・ね・え・ちゃん?」


 アウルが笑っている。
 投げ出されたアウルの肢体の真ん中でそり立つアウル自身を盗み見ながらステラは意を決すると彼の傍に寄った。
 クスクス笑いながら見上げてくるアウルにきゅっと唇を引き締めると彼の腰をまたいだ。


「いく…から」


 羞恥心に頬が燃えるように熱い。
 それ以上にアウルを求める体が熱くて。
 向き合ったまま、アウルの腰にまたがると自分の花弁を指で押し広げ、もう片方の手でアウル自身をあてがった。
 ゆっくりと腰を落としてゆくと、潤みきったステラの花弁はあっさりとアウルを飲み込み、絡みついた。


「ふっ……あ……アウルの……熱いよ……」
「ん……っ」


 甘く、しびれる感覚が二人の結合部から広がってゆく。
 ステラが腰をわずかに持ち上がるとぐちゅりと音を立てて、アウルに絡みついた蜜が糸を引いた。

 もう一度押し込んだ。

 内襞をさすりながらアウルを絡め取るようにゆっくり飲み込んでゆく。荒く息を吐き出しながらうっとりと甘い感覚に酔う。


「あっ…あああっ……いい…」
「う……っく……」


 やがて最奥に突き当たる感覚。
 それはまるでにアウルで全てを満たされるような、恍惚感で・・・・。
 もう歯止めが利かなかった。
 ステラはアウルの首にしがみつきながら切なげな声を上げて、アウルの上で腰を大きく回して振る。前後に緩やかに揺れる腰からステラの蜜があふれ出て二人をぬらしていった。
 アウルもまた自身を内部に擦り付けるように動く細い腰をつかむと彼女を下から突き上げた。


「はうっ……あ……あん」
「あ……う……はぁ……っ」


 食いしばった口元からもれるアウルのあえぎ。
 彼の顔に興奮を覚えたステラはなおも貪欲にアウルを求めてステラは腰を動かした。奥の方できゅうと締め付けてみると、脈打つアウル自身を感じられてうっとりと天井をあおいだ。


 心地よい、一体感。


 騎乗位はいつも不安だったけれど、今日はいつもと違っていて。
 切なげに眉をひそめてあえぐアウルが愛おしくてたまらない。
 少し心持が違うとこんなに違うものなのだろうかと、溶けそうになる意識の中で考えた。


 腰を打ち付け、すり合わせる水音が風呂場に反響して一層いやらしく聞こえた。


「はぁ……ん」


 アウルが目の前で揺れる豊かな胸の先端を口に含むとステラが切なげに息を吐き出す。きゅうとまた内部がアウルをいっそう締め付けた。


「ステラ……」


 アウルはその締め付けに眉間に皺を寄せて大きく息を吐き出すと熱にうかされた瞳で見上げてきた。照明を浴びてキラキラと光るマリンブルーは潤んでいて切なげにステラを見上げてくる。


「アウル……?」


 おねーちゃんでしょ?……とささやくと、アウルは頬を染めてうるさいなとぼやく。そのあとじっと熱っぽい目でねだるようにささやいてきた。


「なぁ…体勢かえよーぜ。じれったい」
「でも……」


 今、幸せな気持ちなのに、とステラがつぶやくまもなく、視界が反転した。


「あ…ああ、ひゃぁああん……っ」


 つながったまま床に押し付けれられた拍子にアウルの先端が重く奥に当たる。頭の中でチカチカと火花が散った。
 アウルはそんなステラにかまわず、彼女の腰を高く掲げ上げて自分の肩の上に引っ掛けると、容赦なく突き上げ始めた。
 今までのじれったさを、我慢をぶつけるかのように大きなうねりを加えてステラの最奥を突き上げた。
 ズンと、奥をえぐられるたびに、繋がっている部分から足のつま先まで駆け巡る甘い痛み。


「あ……あっ、あんっ」


 理性を壊して行く、快楽。
 アウルを更に奥に導くようにステラもアウルの動きに合わせて腰をひねった。アウル自身とステラの秘所がぶつかり合う音とあふれ出た蜜がアウルの先走り液と交じり合ってみだらな音が響き渡る。
 とどまることなくあふれ出る蜜が二人の間に伝って落ちて行く。


「ひぃあんっ、アウ……ル……アウルぅ……あ、ああっ!!」
「ステラ」


 アウルも甘い声を漏らしてステラにキスの雨を降らせた。
 激しい腰の動きとは別物の優しい、口付け。
 アウルの手が有り余る質量の胸を鷲づかみにしてもみ上げる。


「あんっ、あっ……!あ、ああっ……!」


 知り尽くされた性感帯という性感帯を突き上げられ、ステラは悲鳴じみた喘ぎを上げ……達した。身をブルブルと震わせたあと、恍惚として声にならない喘ぎを漏らして、ステラの口元から唾液が零れ落ちる。


「スッゲー締め付け。息詰まるかと思った……」


 アウルの声が遠くに聞こえた。


「先にイっちゃったのかよ?」


 口元の唾液をなめとる感触のあと、アウルが嘆息したのが白一色で染められた意識の端でわかった。
 絶頂に達したステラは息を整えるのが精一杯で彼に答える事も出来なかったが、ステラに意識がある事を確認してアウルは再び動き出した。
 体重をかけてステラの奥を重く打ち付ける。
 まるで自分の痕を彼女の内部にも遺そうとでもするかのように。
 結合部から生じる卑猥な音はますます大きくなってゆき、ステラの喘ぎもまた大きくなって行く。


「あ……あん……っ、あ……ああ……」


 すすり泣くように喘ぎながらステラはアウルを見つめた。
 切なげに息を吐くアウルも見つめ返してくる。


「……んんっ」


 ドロドロに蕩けきった内部を忙しなく行き来するアウル自身にステラの内襞がヒクヒクと痙攣するのが分かった。アウルを締め付けながらそれを飲み込もうと奥へと奥へと誘う。熱く絡みつくステラにアウルもそろそろ限界を感じ始めていた。
 額から伝う汗がステラの胸元へと落ちて行く。


「そろそろ僕、も……イキそう」
「あう……るっ、来て……はやく……」

 
 アウルはステラの脚を放すと、彼女に覆いかぶさるようにきつく抱きしめた。同時に彼の腰の動きも加速して行って。
 大きくクラインドさせながら強く、そして重くステラの奥へと自分を打ち付ける。そしてゆっくりと自身をぎりぎりまで引くぬくと、最後の一突きを加えた。


「くっ……う、うぁ……っ」
「はっ…あ、ああああッ!!」


 自分の最奥にたぎるように熱いアウルの欲望が叩きつけられるのを感じ、二度目の絶頂を迎えたステラの視界がよどんで行く。自分の内部が収縮してアウルの全てを搾り取ろうときつく締め上た。
 アウルは腰をびくびくと痙攣させながらもなおも欲望を吐き出し続けていて。
 最後の一滴までステラの内へと注ぎ込むと、力を失ったように胸元へと倒れこんできた。
 しばらく二人とも息を整えるのが精一杯で抱き合っていた。
 呼吸のたびに自分の中で震えるアウルに幸せを感じながらステラは彼の髪を梳いた。めったにさわらせてくれないの髪は猫の毛のような見た目に反してさらさらと指の間を零れ落ちる。
 手入れの行き届いた、繊細な感触。
 ステラの髪の手入れはスティングがやってくれているけれど、アウルは自分でやっているのだろう。
 
-----そう言えば、アウルは身だしなみにうるさかった事をぼんやりと思い出す。すると胸元でアウルが小さなくしゃみをした。


「やべ……風邪ひく」
「ん……」


 ゆっくりと自分から身を起こすアウルを名残惜しげに見上げながらステラも起き上がった。ずるりと自分の中からアウルが引き抜かれる感触に小さく声を上げた。そして自分の中からどろりと溢れる、アウルの劣情の痕をみて吐息をつく。
 アウルが自分から離れる時の痛みは甘い痛みだけど、それは寂しさも伴う痛み。アウルと身体を重ねた時は何時もこうなのだ。
 ふと、頬に唇が触れた。
 気づくとアウルの顔が至近距離にあって、彼は笑うとすぐに離れた。頬へのキスのくすぐったさにステラも笑った。彼の唇が触れた頬がほんのり熱を帯びていた。

 さっきまでの寂しさがうそのように薄れて行く。

 情事の後、アウルが離れて行くのは寂しいけれど、彼は大概何かを残して行ってくれる。それを思い出して嬉しくなったステラはアウルの手を取って頬を摺り寄せた。
 嬉しそうに、そして幸せそうに。


「なんだよ」
「アウル、好き」
「……な、なんなんだよっ。ほら、さっさと身体洗って湯につかろーぜ。風邪引いたらみっともねー」


 ステラの告白に慌てたようにアウルはそっぽを向くと身体を洗い始めた。顔は見えなかったけれど、彼が耳まで紅くなっているのが分かっって、ステラはニコニコと笑うと彼の背中に擦り寄った。とたん、アウルの悲鳴が上がった。


「この馬鹿っ、ちったぁデリカシーもてよ!!ムードも減ったくれもないじゃねーかっ」



……スティングがこの場にいれば、風呂場でムードもクソもあるかという突っ込みがきっとあったであろう……







 風呂のあと、アウルとステラはステラのベットで身を寄せ合っていた。アウルはステラを腕の中へと納め、互いの足をしっかりと絡ませている。

 互いの体温が心地よくて眠りに落ちる直前------。

 ------アウルはふと思い出したようにステラに問いかけた。


「なぁ、ステラ」
「なに?」
「なんできょーだいゴッコやりたいって言い出したんだよ」


 最後の最後でそれがすっかり忘れ去られてしまった事は触れず、アウルは不思議そうに問うた。
 だけどステラは少し寂しそうに笑うと。


「内緒」


とだけ答えた。
 アウルはその答えにむくれたけれど、ステラはただ微笑むばかりで。やがてアウルは諦めるとステラを抱き寄せてすぐに寝息を立てはじめた。
 ステラはしばらくその寝息を聞いていたが、自分のすぐ近くにアウルの頬に軽く口付けると、ごめんね、とつぶやいた。
 小さく、小さく。
 消え入りそうな声で。

 彼には伝えられなかった真実。
 それは彼から奪われてしまった大切な、記憶。
 アウルが慕っていた「彼女」のようになりたいとステラは思っていて。
 一日で良い。
 彼を守って包み込む、そんな存在になりたいと。
 でも真実を言えるわけがなく、代わりに出したのが「姉弟」だった


 彼に彼女を思い出せてはいけない。
 それはきっと彼を壊してしまうから。

 守る、と言ってもアウルはきっと撥ね付けるだろう。
 自分は守られるほど弱くないと言って。

 本当は寂しがりやで強がりなのだけどアウルはきっと認めようとしない。


……それでもそんなアウルが好きだと、ステラは思う。


「アウル」


 そっと名を呼んだ。
 返事は当然なかったし、ステラも期待していなかった

「守る…からね。いらない、言ってもステラ、守るね」

 最後にゆっくりとそうささやいたあと、ステラはアウルの胸に顔を埋め、眠りの海へと身を任せていった。
 

……だけど、意識が途切れるその瞬間。


 ありがとう、とつぶやいたアウルの声が聞こえたような気がした。


























あとがき
 補足ですが、アウルは部隊の配属当初、まだ母さんの記憶は残ってはいたのですが、ブロックワードの事もあってネオによって消去されています。
 70000hit御礼、美夏様によるリクでアウステ甘裏でした。
 大変遅くなりました!!最後はちょっとほろ苦くなってしまったような気がしますが、幸せな二人を目指しました。
 美夏さま、リクエストありがとうございました。
 質問にも快く答えてくださり、何とか完成にこぎつけました。
 重ね重ねですが、ありがとうございました!
 ここまで読んでくださった方もありがとうございました。