すずめが仲良く囀る声がする。
白いカーテンの隙間から差し込んでくる明るい光。
ステラはそのまぶしさに瞬きをするとゆっくりと目を開けた。
すぐ側で今だ規則正しい寝息を立てているアウルがいる。
昨日の目覚めは彼の方が早かったが、今日は自分の方が早かった。
自分の腰にしっかりと巻き付いている腕に安心感と幸せを感じて
しばし彼の寝顔を見つめた。
端正な顔に影を落としている、まつげはとても細かく、長い。
口元に浮かぶかすかな笑み。
悪戯っぽい表情が浮かぶ事の多い、普段とはちがった穏やかで無邪気な寝顔。
ステラはアウルの無防備な寝顔が昔から大好きだった。
起こしてしまうのがとてももったいない気がして、
彼を起こさないようにそっと頬を寄せた。
自分だけのアウル。
無防備で幼い彼を独占しているのは自分だ。
それが嬉しくて幸せでステラは口元に浮かぶ笑みを押さえる事が出来なかった。
このまま見つめていたかったのだけれど、いつまでもこうしているわけにはいかない。
ステラは名残惜しそうに彼の蒼い髪を梳く。
さらさらと流れる蒼もステラが昔から大好きな物の一つだ。
なかなか触れさせてくれる機会がなかった以前とは違い、
彼女の前に無謀にさらされる事が多い。
それだけ彼女に気を許してくれているのだろう。
そんな彼がとても愛おしくてステラは彼の唇にそっと自分のを重ねた。

「ん・・・・」

小さな身じろぎと共に腰に巻かれていた腕に力がこもり、
ステラはすっぽりとアウルの暖かい腕の中に納められた。
唇を割って入ってきた舌にやや愕いたステラだったが、
目を閉じると素直にアウルの首に腕を回した。
しばらく甘い一時に浸っていた二人だったが、やがて唇を離すと、
まだ眠たげなアウルは語尾を軽く伸ばして微笑んだ。

「おはよー」
「・・・・おはよう」

先ほどの余韻で頬を染めたままのステラに
欲情を覚えたアウルは彼女の白い肌に頬を寄せた。

「んんー。ステラぁ、かわいー・・・・」
「アウル・・?だめ・・・・っ」
「ちょっとくらいいーじゃん?」

クスクス笑いながらアウルは軽く反転すると、
ステラを組み敷いた。
部屋に甘い声が響くのはその一時の間の後。
その頃。


「ソキウス、アイツらまだ降りてきてねーのか?」
「そうみたいですね」
「あのバカップル、まだいちゃついてるんじゃねーだろーなっ!?」

・・・・スティングはご立腹だった。













ふぁんたむ・ぺいんへようこそ
with Little Twin Stars












そんなてんやわんやから数時間後。
一番日当たりのいい部屋で小さな双子が目覚めを迎えようとしていた。
年は4,5歳くらいだろうか。
日の光のまぶしさに蒼い髪の少年は身じろぎをひとつすると、
閉ざされた瞼の下から現れたのは桜色の双眸。
眠たげに数度瞬きをし、焦点を結ぶと、
視界に飛び込んできた奇妙な物体に目をぱちくりとさせた。
そう。
彼の枕元に白い足がーー正確には足首が二本、にょっきりと生えていたのだ。




「・・・・・」




少年はしばらくその物体に目をやっていたが、
視界を隣にあるベットの方に移動させると、
彼が予想した通り、見えるはずの金髪がない。
ムクリと起き上がって布団をはがすと、彼に寄り添うように
同じ歳くらいの金の髪の少女が逆さになって眠りこけていた。
金の髪の少女は彼の双子の妹にあたる。
多少気性が激しいが、根は素直な甘えん坊である。
そんな妹が自分の布団にもぐりこむのはいつものことだったので
特に気にはしなかったが、
今日の寝相は一段と悪いなぁと少年はつぶやいた。
目覚めきってない少年はしばらくぼーっと彼女を見やっていると、
やがて枕元の時計が7時を告げるベルを音を鳴らし始めた。
だが少女は起きようとせず、
枕元にあるはずの時計を止めようと腕を虚空に彷徨わせる。

逆さなんだから届くわけないよ。

少年はぼさぼさの頭をかくと、この少女を起こしにかかった。

ちゃん、起きて。もう朝だよ」

と呼ばれた少女はうーとうなると起き上がった。
まだ寝たりないのか目は開ききっておらず、しきりに目をこすっている。

「顔洗えばすっきりするよ。行こ?」
「ん・・・」

眠たげに頷く少女の手を取ると少年は1階の洗面所へと降りていった。
1階を降りると人の話し声とベーコンを焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
彼らの両親と同居人が経営する喫茶店からだ。
その匂いに二人のおなかが同時にグーと鳴った。
朝は大概喫茶店の中で採るのが彼らのセオリーとなっていた。
朝食に早くありつくために彼らは急いで洗面所へ向かった。




喫茶ふぁんたむ・ぺいんの開店は朝の6時半。
通勤者や帰港してきた船員達の朝の憩いの場所となっているため、朝から忙しい。
特に開店時から7時頃がピークであった。
客足が落ち着いたと感じたアウルが壁にある振り子時計を見やるとその針は7時半をさそうとしていた。そろそろ双子達が起きてくる頃だと判断すると、アウルは店内にいたステラに背中越しに声をかけた。

「ステラぁ、チビ達と俺等の牛乳用意しといて〜」

アウル達と双子達がそろって冷たい牛乳を飲むのは彼等にとって朝の習慣となっていた。たとえそれが凍えるような冬の日であってもそれは変わらない。そしてここにソキウスが加わるようになって彼もこの朝の習慣に参加するようになっていた。特に誰が言い出したわけでもなく、いつの間にか定着してしまったこの習慣は彼等の間ではなくてはならない物となっていた。


「「おはよーございまーす」」

ちょうど6つのコップが用意された頃、きちんと顔を洗い、園児服姿の双子達の声が店内に響く。生まれた何故か当初から高い知能を見せた二人は4歳という年齢で既に自分の身支度が出来、アウル達の手を煩わせる事はない。だがそれでは寂しすぎるというアウルとステラの強い要望もあり、髪の手入れだけは彼等がやっている。ちなみに双子達の担当は日替わりで、アウルとステラがかわりばんこに行っている。出来るだけ双子達を同等に扱い、何事にもかわりばんこに面倒を見る。それが双子達が生まれたときからのスタンスであった。

「コップは行き渡ったか?」

朝のコップが皆似行き渡ったのをチェックするのはここの長であるスティングの仕事だ。彼の合図で皆が一斉に牛乳に口を付ける。そして牛乳が減る過程は人それぞれ。

アウルは一息で飲み干し、
ステラは一口一口味わうように飲んでゆく。
ソキウスは無駄のない動きで効率よく飲み干してゆく。
双子達は両手でコップを持ち、同じタイミングで牛乳を飲んでゆく。
もちろんその間の息継ぎも忘れずに。
そしてスティングはその双子達に気を気張りながら飲むのである。

双子達の朝ご飯はそれから。
スティング作の卵料理とサラダ。
焼きたてパン。
絞りたてのジュース。
これらをカウンター席でいただく。

この光景は朝の名物となっていて、店内の客もほほえましそうに見ていた。

食事の後はアウルとステラが待ちかまえていたように
双子達の髪の手入れに取りかかる。

「・・・、こっち」

今日の長男坊の担当はステラ。
彼女はアウルとそっくりな、クセっ毛の蒼い髪を
丁寧にブラッシングしながらさらさらと指の間を流れる感触に幸せな笑みを浮かべた。
一方アウルは長女の髪を手櫛で絡まりをほぐすと、同様にブラッシングをかけてゆく。時折手で梳いてぱらぱらと散らし、その金が揺れる様に誇らしげに彼は目を細めた。以前は得る事を夢にも思わなかった事もなかった存在だったが、今の彼等にとって子ども達は何よりも大事な宝物だ。誇らしくさえ思っていた。


最後に帽子をかぶり、スティング製クマのアップリケ付き鞄を持つとアウルとステラの最終チェックが入る。

「ハンカチとティッシュは・・・?」
「「持ってるよ!!」」

ステラの言葉に双子達は色違いのハンカチとティッシュを出して見せた。

「バンドエイドと迷子プレートは持ってっか?」
「「うん!!」」

これもちゃんと出してアウルに得意げに見せた。
迷子プレートには双子達の名前、連絡先と血液型が書いてあり、小さなパスケースに入っている。
字は汚いが、万が一の時に、とアウルが懸命に考えて作った物だった。

「・・・・準備良し」

双子達の帽子を直してあげたステラがそう言うと、アウルは双子達を交互に見やって言い聞かせた。

「いいかぁ、お前等。売られたケンカは買え。思いっきりやって必ず勝てよ?」
「殺してはダメよ?」

にっこり微笑んで付け足すステラ。
そんな二人にスティングは違うだろうと溜め息をついた。

「・・・・それ以前に変な事教えんな、とゆーとろーが。迷惑度が二倍になるぞ」

何も自分からトラブルに首を突っ込ませるような事をいわんでも良かろうと言うスティングにアウルが猛烈な勢いで食ってかかった。


「ンだとぉ?じゃあてめーはチビ達に黙ってやられてろと言うのか、ああっ!?」

全身の毛を逆立てた猫のような猫のように食ってかかってきたアウルの剣幕に
たじたじとなりながら双子達に思いっきりなんてやらせてみろ、けが人が出るぞとスティングはつけたす。
双子達の暴走も心配だが、ステラと双子達の事となるとアウルの目の色が変わるのが常であって、
こう言うときのアウルは全く手が付けられない。
双子達が大型犬などに吠えかけられたときはその犬を逆に脅し、
双子達が横断歩道を渡ろうとしたとき信号無視で突っ込もうとしてきた運転手を締め上げたりした。
もちろんステラも双子達に害する物に対して容赦がなく、アウルとステラの両方に暴走されると流石のスティングも
対処出来る確率は皆無に等しい。
なるたけ双子達が余計なトラブルに巻き込まれない事。
穏便に事を済ませられるならその方がいいのだ。・・・・相手側の被害を考量して、だ。
子どもを溺愛するのはいいが、物事には限度があり、この世に生きていく限りでは周囲の事も考えて生活していかなければならない。
それに・・・・。この調子ではアウルとステラは子離れなんぞ出来ないんじゃねぇかとステイングは今から頭が痛かった。
双子以上にその親が心配なスティング。
そしてそんな彼にとって頭の痛い事がもう一つ。



。車には気を付けろよ〜。チビ達を頼んだぜ、ステラ」
「「うん!」」
「・・・・うん」

アウルは名残惜しげに双子達の頭を撫でると本日の送り迎え担当のステラを抱きしめた。
オイオイ、チビ達の面前でラブシーンはやめてくれよというスティングの願いは届く事はない。
これも毎朝の事。
ソキウスも店内に残っている客も慣れきっているのか、気にする素振りはない。
いや、しないようにしているのが正しいだろう。

。回れ右」
「「?」」

スティングは深い溜め息をつくと双子達を後ろに向かせた。
視界の隅でアウルとステラが甘いキスをしているのが見える。
ガキが出来ても恥ずかしげもなくバカップルかよ。

スティングは泣きたい気持で天井を仰ぐのであった。



余談。

「お兄ちゃん」
「何?」
「パパとママがキスするトコ、珍しくないよね?何で後ろ向かなきゃなんないの?」
「さあ?」










あとがき

黒子様による6666hitリク
双子達の親になったアウステでした。
子どもが可愛くて仕方ない親馬鹿と化してます。
デフォルトの名前は黒子様のを参考にしました。
甘いの目指しましたが・・・どうでしょう・・・(弱気)
遅くなりすみませんでした!!
シリーズを飛び越して来ちゃいました、双子達。
甘々な両親に頭を抱える兄さんとは対照的に
彼等を普通に受け止めています。
ソキウスは傍観者(笑)
そうそう、冒頭の双子のシーンは私が小学生の時の実話(笑)
正体は妹だったんですが、朝起きるとすっげーびっくりしますよ、ホント。
黒子様、お気に召すかどうか分かりませんが、よろしければお持ちください。
本編では登場してないからどうしようかと悩みつつも、書いていて楽しかったです。
リク、有り難うございました。
ここまで読んでくださた方も有り難うございました。