蒼い蒼い海。 落ちてゆく機体からユラユラと揺れる水面が見える。 ああ、僕は沈むんだな。 海に。 ステラの好きだった海に。 ・・・・。 ・・・・ステラ? ・・・・・ああ、そうか。 僕が忘れていた大事なこと。 ずっと頭の隅から離れなかったイメージ。 ずっと感じていた違和感。 どうして忘れていたんだろう。 ずっと一緒だったのに。 大切だったのに。 幸せそうな笑顔が浮かぶ。 お馬鹿なステラ。 幸せなステラ。 お前は何も知らなくて良い。 お前はただ笑っていればいい。 怖いこと。 嫌なことは俺等が引き受ければいいのだから。 でももうそれは叶わない。 お前はもういないから。 僕もじきにいなくなるから。 バカステラ。 あんなに死ぬのを怖がっていたのに。 僕より先に逝きやがって。 ・・・・ごめんな。 いじめてばかりで。 ごめんよ、臆病な僕で。 明日も分からない身で諦めきっていて。 お前を本当に安心させる言葉が言えなかった、 臆病な僕を許して。 僕ももうすぐそっちへ行くから。 そして謝るから。 お前を守れなかったこと。 優しくしてあげれなかったことを。 もし。 もしまたいつか、どこかで出会えたなら。 今度こそ、ずっと側にいてお前を守るから。 優しくするから。 ステラ。 |
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Refrain Love |
ステラ。 ステラ、またお前に逢いたい。 ・・・・逢いたい。 「・・・・ステラ」 「なあに、アウル?」 ふと唇から漏れた言葉に返ってきた返事にアウルは愕いて目を開けた。 まどろみの中にいた意識が急速に覚醒して行き、ぼやけた視界が焦点をゆっくりと結んでゆく。 揺れる視界の中に若葉色と白金色が入り交じったまぶしい木漏れ日が映る。 次に映ったのは大きなすみれ色の瞳と金の髪。 光を受けてキラキラと光っている。 そのまぶしさにマリンブルーをぱちぱちさせると何やら冷たくて暖かい物が頬を滑り落ちていった。 「あん?何だよ、これ?」 アウルは訳が分からないと目元をぬぐうと、手の甲がひやりとした感触で濡れていた。 「・・・・?」 「アウル、泣いている?何処か痛い・・・・の?」 心配そうにのぞき込んできた幼なじみの少女にアウルは初めて自分が泣いていたことに気付いた。夢うつつに泣くなんてどうかしている。格好悪い所を見られたという恥ずかしさに頬を僅かに染めて起きあがった。その反動で彼が寝そべっていた枝ががさりと揺れた。 「泣いてねーよ、バカ。それより何見てンだ・・・・。ん?」 文句を言いかけてそこではたと自分のいる場所を思い出した。 同時に眉間に皺が寄る。 「おいっ、ここは木の上だぞっ。何でここにいんだよ」 「アウルなら多分・・・・ここだろうって思った・・・・から」 きょとんとした表情で自分を見返してくる少女にアウルは大きく溜め息をついた。 ここはアウルが昼寝の場所として重宝している木の上だ。 背が高く、しっかりとした幹に枝がびっしりと映えていて下からではまず上のことがまず分からない。そして彼と幼なじみである少女が通うこの学校にはこのような木が沢山生殖していて、昼寝の場に困らない。この木はその中でも一番背が高く、校舎の一番端にあって校舎を見渡せるからアウルは特に気に入っている。 それでも他に沢山木があるというのに,、この幼なじみはどうやって自分を見つけ出したのか不思議だった。 否。 いつも彼女は自分を見つけ出してしまう。それが不思議でならない。 「・・・・なんか用」 諦めたようにまた息を一つ付いて少女を見やると、彼女はふわりと笑った。 夢の中のイメージとだぶり、胸にこみ上げてきた感情を振り払おうとアウルは頭を振った。たまに見る夢だ。自分がいて。幼なじみの少女と。もう一人の幼なじみである少年がいた夢。蒼い軍服を着てモビルスーツとか言う乗り物に乗って戦う日々を送る夢。未来を諦めながらも、何処か帰る場所を望んでいた、悲しい夢。 「・・・・やっぱりどうかしたの、アウル?」 「なんでもねーっつってんだろ、ステラ。それよりなんか用かよ」 てこでも白状しそうにないアウルに少し不満そうな顔を見せたステラだったが、直ぐに元の笑顔に戻ると身を乗り出してアウルの腕を引いた。その拍子に乗っていた枝がしなってアウルは慌てる。 「おい、コラ!急に乗るなっ」 乗っている枝は二人分を支えるには十分だとはいえ、急に乗ってこられるとその反動で落ちかねない。墜落死などとという間抜けな最期はごめんこうむりたい。 そんなアウルの慌てぶりなど意に介した様子はなく、ステラはアウルの腕に頬を寄せ、彼に寄り添うように座った。そして目を閉じてしばし風の音に耳を澄ました。そんな彼女にアウルもまた同じように目を閉じて呼吸を合わせる。 耳元を風が吹きぬけ風に揺れる葉のささやきが。遠くでホイッスルや歓声、車のクラクションが聞こえてくる。 「アウル、ステラも一緒にお昼寝したい」 「アホか。お前までさぼったら僕がさぼれないじゃん」 ステラの呟きにアウルは目を開けて不満げに彼女を見やると彼女も目を開けて見返してくる。 「じゃあ一緒に授業受けてお昼休み一緒に行こう?」 何がじゃあ、だとぼやくアウル。だが拒否して兄貴分である幼なじみに告げ口でもされたらたまったものではないない。しかたねーなとしぶしぶ同意するとステラは嬉しそうにまた微笑んだ。 アウルはするすると木を降りてゆくと、最後の枝分かれのところで軽く飛び降りて着地した。そしてステラを待って木を見上げたが、彼女が降りてくる気配が一向にない。少し苛立って木の上にいる彼女に声を張り上げた。 「早く降りて来いよ、このばーかっ!置いてくよっ!?」 だが上から返ってきたか細い返事にアウルは思わず頭を抱えた。 「待って・・・・アウルぅ・・・・。ステラ、降りれない・・・・」 「ったく、降りれねーんだったら最初から登るなっつーの」 「だってぇ・・・・」 アウルにおんぶされ、べそをかきながら降りてゆくステラ。 腕はしっかりとアウルの首に回され、落ちないようしっかりとしがみついている。 文句を言いながらも彼女を怖がらせないようにアウルはステラを抱えながらするすると木を降りて行った。 なんだかんだ言ってもアウルは優しい。 ステラはそんなアウルの横顔を見やりながら、彼の背中のぬくもりが嬉しくて彼に分からないように幸せそうに笑った。 「はい、とぉーちゃあーく」 地面に到着するとアウルは静かに彼女を降ろすと、自分の上の枝を払い、ついでにステラの枝や葉を払ってやった。 瞳を細めてアウルにされるがままだったステラは自分の枝が払われてぬくもりが 遠ざかるのを名残惜しげに見つめた。 「うん、ありがと・・・・」 「運搬料はアイスでいーよ」 そんなステラに気付かないアウルはにかっと笑うと彼の行きつけの店のアイスを要求した。とたんぱああと顔をかがやかせるステラ。 「わあ、アウルと一緒に寄り道?ステラ、嬉しい!」 アウルのセリフに一緒に寄り道と喜ぶステラにアウルはこいつ、自分がおごらされるという事が分かってんのかよと呆れた顔をしたが、やがて彼もステラにつられて笑いだした。 「やっぱアイスはここのチョコミントだな」 ステラにおごらせたアイスを口にしながらうんうんと感慨深げに頷くアウル。 並んで歩くステラはお気に入りのストロベリーと夏限定のブルーハワイだった。 「ブルーハワイってどんな味なんだろーな」 「・・・・食べる?」 アウルの疑問に当たり前のようにステラのアイスが差し出された。 「ん、ちょっとちょーだい」 そして何のためらいもなくアウルも一口それを口にすると 口に広がったのは少し苦みのあるグレープフルーツ。 まさに夏にふさわしい爽やかな甘みだった。 「うまいな、コレ」 「もっと食べる?」 アウルの賞賛の言葉でまた差し出されたアイスにアウルは少し決まり悪そうに頷く。 「サンキュー、お前も食う?」 「うんっ」 流石に自分ばかりというのも気が引けて自分のアイスを差し出すとステラは嬉しそうにすみれ色をキラキラさせた。そして彼女が少し背伸びしてアウルのアイスにパク付くとそれに交差するようにアウルもステラのアイスを口にした。 その時後ろでチリリンと自転車のベルが鳴らされた。 ベルの音に振り返るともう一人の幼なじみである少年が呆れたような揶揄するような笑みを浮かべてこちらを見ていた。 「寄り道した上、道のど真ん中でイチャついてんじゃねーよ」 「はあ?何言ってンの、スティング」 アウルは訳分かんねと眉をひそめたが、お前も一口食うかとスティングにアイスを差し出した。それを見てステラのも、とステラも同じように自分のを差し出す。 「・・・・無自覚かよ」 そしてそんな二人にスティングは溜め息混じりに笑うのだった。 「今日登校日だったのかよ」 「そういうわけでもないが、先生に質問があってな」 スティングは自転車から降りるとそれを押してアウルとステラと並んで歩きだした。今年受験生となり、あまり学校に出てこなくなったスティングだが、出てきたときは極力彼らと共に帰ることにしている。しばらく歩いているとアウルが彼を見やり、とんでもないことを言い出した。 「なあ留年して僕と一緒に来年受験生やろーぜ」 「バカ言うな」 「ちぇーーー」 良いアイディアだと思ったのになとぼやく弟分に苦笑しながら彼は妹分を見やった。 「スティング、アウルとステラとずっと一緒じゃ駄目・・・・?」 「いつまでもバカやってられねーだろ?」 彼女も非常に残念そうで一瞬その誘惑にかられたが、慌てて思い直す。いつまでもバカをやっていられない時期なのだ。 『バカをやれよ、バカをさ』 ふとその言葉が頭をよぎった。 いつだったか。 自分がその言葉を言ったような気がした。 いつもこのように一緒にいて・・・・。 一緒に戦って・・・・。 戦う? 何と? 「バカげてる」 ぽつりと漏らした言葉にアウルとステラが怪訝そうな顔を向けてきたので何でもないと笑った。 「・・・・笑うかもしんないけどさ、時々夢みんだよ。僕とお前とステラがいて。宇宙と海の上で戦ってんの。ヒーローものの夢にしゃちゃあなんか悲しくってさ」 頭の後ろに腕を組んで歩いていたアウルがふと思い出したかのように口を開いた。 「でも夢の中の俺等、すっごく楽しそうだった。ちっとも自分らを不幸だと思ってなかったんだよ。3人だからって」 「そうか」 ただ頷くスティングに笑わねーの、とアウルが視線を向けてくると笑うわけないだろとスティングは苦笑した。だが自分も似たような夢を見たなどとは気恥ずかしくて彼らに言えなかった。 模試があるからというスティングと別れるとまたアウルとステラの二人になった。しばらく無言で歩いていると、ステラから口を開いた。 「ね。アウル」 「ああ?」 自分を見返すアウルにステラは微笑んだ。 『なぁにやってんだ、この馬鹿っ!!』 彼女の脳裏に蒼い軍服を着た少年がよみがえる。 今のアウルと変わらない声で、姿で彼女に呼びかける。 口調は乱暴だけれど、優しさが言葉に見え隠れしていて。 当たり前すぎて気付かなかった光景。 「ステラもね、夢見たよ。アウルと同じ夢。ステラがいて。アウルがいて。スティングもいた。みんな笑っていた」 「・・・・」 「スティングはやっぱり優しくて。アウルは意地悪だったけれどやっぱり優しかった」 「あっそ」 素っ気なくそっぽをアウルにステラは僅かに眉尻を下げたが、アウルの頬が僅かに紅くなっているのに気付くと彼の顔をのぞき込んだ。慌ててそらすアウル。またのぞき込むステラ。 「やめろ、この馬鹿っ!」 顔を真っ赤にしながらステラを押しのけようとするアウルにステラは腕を回してその旨に顔を埋めた。 「ね、アウル」 「な、なんだよ・・・・」 狼狽した声が頭の上に降ってくる。 彼は今どんな顔をしているのだろうか? 顔を埋めたままステラは言葉を続けた。 「ずうっと前。生まれる前に離ればなれになったとしても・・・・また会えて良かった。アウルに、スティングに」 「・・・・」 黙ったまま腕が回される。 暖かいぬくもり。 前もきっとこのように抱きしめてくれた。 会いたかった。 何の前触れもなく、 さよならの言葉もなく、あなたはいなくなって。 アウルは? アウルはいない。 そしてわたしは凍り付く寒さの中、あなたの姿を探して探した。 「アウルにまた会えて良かった」 「・・・・アホ」 僕が言いたかった言葉なのにという呟きが耳元に聞こえてステラを抱く腕に力がこもる。近くにアウルの吐息を感じる。 「なあ」 「なあに」 寄せられた頬の暖かさを感じながらステラは目を閉じる。 「僕は少しは優しくなれた?」 怖い思いさせていない? 守れているかと不安そうにアウルは聞いてくる。 「・・・・アウルはいつも優しい。アウルがいるからステラでいられるの」 あなたがいて、私がいる。 スティングがいる世界。 ステラを見つけてくれて有り難う。 また傍にいてくれて有り難う。 ステラのささやきにアウルはやっと安心したように息をついた。 ずっと心に引っかかってきたこと。 長いような短いような悠久の時を超えてやっと会えた俺等。 今度こそ傍にいて君を守りたい。 もう離れることないように。 悲しい想いや怖い想いをさせないように守るから。 今なら素直にそういえる。 「ステラぁ」 君の名を呼ぶ。 そして何度でも何度でも言うから。 「ずっと、ずっと一緒にいような」 |
あとがき 20000hitを踏んでくださった, 学園アウステをとのkoko様のリク。 シード学園のとは違う、輪廻をテーマとした学園物。 お気に召していただけたら幸いです。 駄文でよろしかたらお持ちください。 ここまで読んでくださった方も有り難うございました。 |