夜の7時から30分は俺たちのゴールデンタイムだ。
アウルとステラと連れだって大浴場へと向かう。
この時間の男湯は俺たちの貸し切りとなる。
1日の疲れを癒し、明日への活力を養うため、
そして仲間同士のコミュニケーションの場として
これは大事な日課の一つだ。
日頃の会話と体調チェックは大事なんだぜ?
特にこいつ等との場合。















ちゃんと100数えるんだぞ

















「ステラ、ちゃんと耳の裏まで洗うんだぞ?」
「うんっ!!」

隣で泡だらけになっているステラに声を掛けるとご機嫌な返事が返ってくる。
ステラは大の風呂好きだ。
風呂の時間となるとお気に入りの風呂セットを持って俺たちの部屋へとやってくるのだが、
その時間はかなり正確で俺とアウルにとって良い時間の目安にもなっている。
そしてステラは体を洗うときは泡のふわふわ感が好きだと言ってこれでもかっという程石けんを泡立て使う。
当たり前のように石けんの減りが激しいので経費の関係上、ボディーソープは使えないので使うのは固形石けんだ。。
アウルは固形石けんはめんどくさいと文句を言うが
俺としては固形石けんの方がラボの頃から使い慣れているし、素朴で良いと思う。
そんなアウルはさっさと体を洗い終えて、湯船に浸かっている。
その湯船にはステラの持ってきたアヒルの親子がぷかぷか浮かんでいて、
時々それを突っついて笑みを浮かべているのが視界の隅からうかがいしれた。

なんで視界の隅からだって?

その時のアウルは可愛いモンだぞ?
トンでもないへそ曲がりが素直に笑う所なんてめったに見れるモンじゃない。
それをジロジロ見ようものならたちまちしかめっ面になるのが目に見える。
そんなもったいない事出来るか!

「スティング、頭洗って」

身体を流し終えたステラがお気に入りのシャンプーを手に此方へとやってきた。
風呂の時間にステラの頭を洗ってやるのは俺の楽しみの一つだ。
ニコニコと笑みを浮かべて笑い声をあげるところがとにかく可愛い。
もちろんさりげなく髪の艶をチェックする事も忘れないぞ。

ん?
何か言いたそうだな?
ここは男湯だぞ、確かに。
女湯なんぞに入れるか!
変態じゃねぇんだぞ!!
何だと?
何故ステラが俺たちと一緒に風呂に入っているかって?
当たり前だろう!!
俺たちはガキの頃から一緒だったんだぜ?
それにステラを一人風呂に行かせてみろ!
どうなるか!
足を滑らせて頭を強打するかもしれない。
もしかしたら湯船で溺れてしまうかもしれない。
頭だって一人で洗えないんだぞ!!
ステラにもしもの事があったら責任とんのか、ああっ!?


「スティング」
「なんだ、ステラ?」

頭を流し終えたステラが満面の笑みで此方を顧みている。
よしよし、綺麗になったな?
その華咲くような笑顔が俺の日頃の疲れを吹っ飛ばしてくれるんだ。
だからステラの髪を洗う役目だけは絶対に譲れない。
そのステラはにっこり笑うと、スポンジを突きだして俺にこう言った。

「ステラ、スティングの背中流す」
「あ?」
「背中、流してあげる」

要するに俺の背中を流してくれると言う事か。
嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。
喜んで背中を向けたら、今度は背後で突き刺すような視線を感じて振り向くと、
湯船に浸かったアウルが口元をへの字に曲げてこちらを睨んでいた。

ヤキモチか?
それとも・・・・。

「おい、アウル」
「なんだよ」

不機嫌さ全開の声色で応えてくるアウルに俺は笑って見せた。

「お前の背中流してやろうか?」

とたん緩むアウルの頬。
やっぱり。
仲間はずれにされたと思ったのだろう。
分かりやすいヤツだ。

「ふん。そこまで言うのなら」

アウルはそう言うといそいそと湯船から上がってきた。
素直じゃねぇな。
口元がほころぶのをアウルに気付かれないようにするのが一苦労だった。
俺は石けんを泡立てるとアウルの背中に持っていたスポンジを当ててこすり始めた。俺の後ろでステラが懸命に俺の背中をこすっている。

こうしてみると親子か兄妹みたいだ。

あとでステラの背中を流してやろう。
そのあと3人で湯船に入ろう。
肩まで浸かって100まで数えよう。

夜7時からの30分は俺たちのゴールデン・タイム。

その時間は誰も入ってこない。
俺たち3人だけの時間。
入りたければ入ってきても良いぜ?
命の保証はしないがな。







あとがき

日常SSの「Batheing Time」とリンクしてます。
アウステを溺愛する兄さんでした。


兄さん、にーさーん!!
優しい兄さん、大好き!!