C.E.70年2月11日地球連合、プラントに宣戦布告。
  
同年2月14日血のバレンタイン。
地球国家による核攻撃によりユニウス・セブンにおいて24万3721名の犠牲者を出し、ナチュラル・コーディネーター間での緊張が一気に高まる。

C.E.71年1月25日GAT-Xシリーズの4機が奪取される。戦争の激化。

C.E.72年3月10日停戦条約、「ユニウス条約」締結。1年半に及ぶ戦争が終結する。






これは一つの歴史。
この戦争で多くの血が流れ、数多の命が失われ。
その中にエクステンデットの少年3名と一人の少女がいた。





だが。




もし。
もし、この4人が、ドミニオンクルーが生き延びていたとしたら・・・・・?




これはもう一つの可能性の物語。









オーブの片隅にある山に囲まれた小さな田舎町。
この町の端っこにある、大きな一軒家に賑やかな家族が越してきたのは数ヶ月前。

家族、と言っても10代の少年少女ばかりだったが、
人当たりの良い年長の二人に愛らしい少女二人。
快活な年少組。
社交的ではないがなぜか子供の受けが良い少年。
程なくして彼らは町の住民に受け入れられていった。














青春家族

幸せの朝













緑の葉が生い茂る木々の上で小鳥が朝の唄を歌い、朝露が葉を伝って太陽のきらめきと共にと零れ落ちる。

朝の湿り気を含んだ風が緑の主である木々を揺らし、
その下の大きな一軒家からは朝から活気のある音が聞こえてきていた。



シャカシャカ。

泡だて器がボウルの中で軽快な音を立てて動いている。泡だて器を握る手首の鮮やかな動きで中の卵たちは見る間に鮮やかな黄色へと変化してゆく。

「卵ってのはこうやってかき混ぜると白身も綺麗に混じってってうまいオムレツになる。
手間はかかるが味は全然ちがうモンだぜ」
「オルガ、チーズと粉チーズ」
「おう」

得意げに料理講義するオルガにスティング絶妙なタイミングで次の材料を用意して寄越し、キッチンレンジの上では既にバターが溶けて準備万端のフライパンがじゅうじゅうと音を立てていた。


「あらよっと」


軽快な掛け声と共にフライパンの中に流された卵が菜箸でかき回され、見る間に半熟状態のオムレツとなり、暖められたプレートの上に乗せられた。

スティングがそのオムレツを冷めないうちに保温カバーをかける。

完璧な二人のコンビネーションをフレイは言葉無く見つめ、出来上がった料理を前に感嘆のため息をついた。


「あなたたち、すごいわね」
「そうか?」
「そうですか?」


次のオムレツに取り掛かりながら嬉しそうに同じ言葉を返してくる二人がなんともおかしくてフレイは口元をほころばせると、パンを焼いているオーブンの方へと視線を移す。


オーブンの前ではピンクのエプロン姿のステラが陣取っていて熱心にその扉の中を覗きこんでいた。
そのすぐ後ろでパン種をこねる作業を手伝ったクロトが腰掛けている椅子の上からそんな彼女を見守っている。


「おはよ・・・・」


そうしているうちにまだ眠たげな声でシャニがキッチンに顔を出す。

その手には朝刊が握られていて、そんな彼の何の変哲もない、平和な朝だとフレイは実感する。

開け放たれた窓からは真っ青な空が覗いていて、優しい風が白いカーテンを揺らす。

そう。

平和な、朝。
あれだけ望み、諦めていた日々が今ここにあることにフレイは幸せを感じていた。

改めてそう思うと心が浮き足立ってくる。
あ、なんて幸せなんだろうと。


「あら?アウルは?」


残りの一人の不在に気づいたフレイが問うと、シャニはゆるいウェーブがかかった薄緑の前髪をかき上げて少し考える素振りを見せた。

「ん〜?多分・・・・まだ寝ている・・・・かも」
「困った子ねー」


一瞬だけ覗いた金の瞳も普段から見えている紫の瞳と同じようにゆっくりと瞬きを繰り返す。

無意識な挙動。
無意識だけれど気を許したものだけにしか見せない、仕草。

少し得した気持ちになってフレイは微笑むと、アウルを起こそうと上機嫌に鼻歌を歌いながら身に着けていた紅いエプロンを外した。

そこでふといつも起こしに行っているステラのことを思い出し、後ろを顧みるとステラはまだ懸命にオーブンを覗き込んでいて、そこから動く気配は無い。

やはり自分かとフレイはクスリと笑うと、彼女はアウルを起こしに彼の部屋へと階段を上がっていった。











アウルの部屋はクロトと同室だ。

部屋を覗くと二段ベットの下の方で盛り上がった布団が規則的に上下していた。

フレイは困ったように笑うと、静かにそのベットの元へと近づく。

そして上から覗き込み、ベットの主に柔らかく声をかけた。



「アウル・・・・起きて」



いつもなら起きなさい、とベットの布団ごとひっぺ返すのが日常なのだが今日は少しだけイタズラ心を起こして趣向を変えて。

なぜかは分からないけれど今日は特にうきうきとした気分だったから。



軽い寝ぼけた声を出して水色の頭が布団の中からわずかに姿を現す。

もぞもぞと動いてはいたが起き上がる気配は一向に無くて、フレイは柳眉をわずかにあげると今度はいつものパターンで起こそうと布団に手をかけた。





ところが。





「?!」

布団の中から伸びてきた白い手がフレイの両手首を捉え、白い手の主へとおもむろに引き寄せた。

抵抗する間もなく、彼女はベットの上へと倒れこむ。
軽い音がしてその勢いでベットが軋んで揺れた。


「へっへー、捕まえた。だまされてやんの、このば・・・・」


イタズラっけたっぷりの光をマリンブルーに宿し、アウルが勝ち誇った声を上げる。

そして引き寄せた少女をその勢いのまま口付けようとわずかに上体を起こしたが、視界に映ったのは予想していたすみれ色では無く、深いフェリシアン・ブルー。

あと数ミリで唇が触れる距離でぴたりと止まると、驚愕に目を見開き、アウルはそのまま硬直した。


「ふ・・・・フレイ・・・・さ・・・・ん?」
「おはよう。ようやくお目覚めかしら?」


驚きに石化したアウルとは反対にフレイは冷静そのものの笑顔で微笑む。

アウルはアウルで声は確かステラだったはずだとぐるぐる思考をめぐらせてばかりで。其のうち良い言い訳を考える思考に切りかわる。

フレイの腕を放せばいいものをそこまで思考が回らなかったらしい。

フレイがため息をつきつつ開放を待ち。
彼がようやくその手を離したのはいつまでたっても降りてこない二人を心配して二階に上がってきたクロトの金切り声が部屋に響き渡った時。


「あ−−−−−っ!!フレイを離せ、この万年発情野郎!!!」
「誰が万年発情だっ、馬鹿クロト!!」


烈火のごとく怒り狂うクロトに負けじとアウルも顔を真っ赤にして応戦する。

ようやく解放されたフレイは疲れた肩をすくめ、まき沿いを食らう前にとそそくさとベットを離れる。


「撃・滅っ!!」


それを合図にクロトがアウルに飛び掛り、ベットの上での乱闘が始まった。



「てめー、ステラがいるくせにっ!!」
「人の話し聞けよ!!」
「聞く耳ないねっ!!滅・殺!!」


朝から元気にケンカを始める二人。

このままだとベットが壊れ、部屋は荒れてしまうかもしれない。

しかりつけてやりたいけれどケンカの大元は少々不本意だが自分にある。

フレイはどうやってこの場を収めるかを考えていると不意に光が翳って顔を上げた。


「馬鹿がまた馬鹿やってる」


シャニだった。
彼はフレイ越しに部屋を覗き込んでいて、彼のすぐ後ろにステラがいた。


「そう言わないで何とかできない」
「まきこまれるのやだ」


にべも無くそう切り捨てられ、フレイはため息をつく。


「必・殺っ!!クロト流膝落し!!」
「膝蹴りに妙な名前つけんな!!」


そうしている間もアウルとクロトのケンカは白熱していて、どうにも出来ずに無駄に時間だけが流れる。

ここはオルガかスティングか。

そう結論付け、フレイが下に降りようときびすを返し
た時。


「・・・・アウル、浮気もの」

ぽつりと。
長い沈黙の中。
先ほどから一言も発しなかったステラのつぶやきにフレイが固まる。

ゆっくりとステラのほうを見やるといつもは茫洋とした彼女のすみれ色にはっきりとした怒気の色が浮かんでいた。

嫌な予感がしてフレイは口元を引きつらせるとステラのほうからシャニのほうへと視線を移し。すすっと音を立てないよう彼の元へと近づいて、ささやきかけた。


「あなたたち・・・・いつからいたの?」
「ん〜〜?アウルを起こすのはステラだって俺より早く階段上がって行ったよ」
「・・・・まさか」


嫌な予感を覚えてフレイの顔がこわばってゆく。
彼女の予感が正しかった事を裏付けるかのようシャニがさらに付け加えた。


「俺が上がっていったときはなんかもう戦闘モードに入ってた」



やっぱり!!



フレイは頭を抱えたくなった。



見られたのだ。
アウルとのさきほどのやり取りを。
声で間違えられたと言っても納得してくれるかどうか。それよりもあの様子では話を聞いてくれるかどうかも怪しい。


「でもいい度胸だね。俺のステラを怒らせるなんて」


絶対零度の冷気を含んだシャニの声にフレイが恐る恐る彼を見やるとシャニの口元には邪悪な笑みが浮かんでいた。

どうやらステラの怒りがシャニにも伝染したらしい・・・・と言うよりも。

ステラの怒りは自分の怒り。

・・・・・のようである。





ステラの敵はシャニの敵。
シャニの敵はステラの敵。


片方を敵に回せばもう片方も敵に回る。
シャニとステラはそういう二人なのだ。
心労が二倍になってフレイの華奢な双肩にのしかかり、彼女は困り果てて天井を仰いだ。














「声ねぇ。間違うものかぁ?」
「姉妹だと似て来るって聞くから一緒に住んでいるうちに似てきたとか」


朝の食卓で二人の長兄たちが弟分達のトーストにバターを塗ってやりながら首をかしげる。

オルガとスティングののん気な会話にフレイはまたもやため息をつきたくなった。

ため息をついた分だけ幸せが逃げるというからあまりつきたくないものなのだがこぼさずにはいられない。
二人はこの状況になれきっているのか、フレイには危機感がなさすぎるように思えてならないからだ。


「オムレツうまいっ!!」


アウルを気の済むほど殴れたせいか満面笑顔のクロトがご機嫌な様子でオムレツをほおばっていて、その隣でアウルもオムレツを平らげている。

二人とも傷だらけだったが、気がすむまでケンカをした後はあとくされも無く仲直りをしたようでこうして隣同士て朝食を共にしている。

その点は心配なかったのだが、問題はもう一つの方である。


ステラはむっつりとした表情のままオムレツをナイフで切っていたが、先ほどから一口も口にしておらず、オムレツはどんどん細切れになってゆくだけである。

明らかに不機嫌。

よくよく見るとアウルのほうも落ちつかなげでせっかくのオムレツの味も分からない状態だった。



何とか仲直りをさせなければ。
イタズラ心を起こした自分がいけなかったのだから。

フレイは入れたての紅茶を前にその決心を固めた。
紅茶に映った自分の顔が白い湯気と共に揺らぐ。











あとがき



『アウステと二人のお姉さん的存在フレイ。誰も死んでない、戦後の中でフレイの声をステラのと聞き間違った事から起こる、アウステほのぼの話』という携帯サイトでの11111hitリク。


フレイが6人の連合チームと暮らすSEED戦後パラレル。研究所もなくなっているので強奪事件は起きてません。軍とはほとんど関係なく生きています。

宇宙のユニウス・セブンでシンたちが某テロリストと戦っているかも。

もうちょっと続きます。