オルガ、シャニ、そしてクロト。 血のバレンタインにより激化したナチュラルとコーディネーターの戦争でフレイはオルガたちと運命的な出会いを果たし、紆余曲折の出来事を経て今に至る。 彼らを恐れはしていたものの、フレイは初めの頃から彼らを生体CPUとしてではなく、各々の一人の人間として見てきた。 それは彼女自身が不本意とはいえ、コーディネーターと共に行動してきたせいなのかもしれない。 ブルーコスモスの熱烈な支持者だった父親に育てられてきたフレイはコーディネーターは人ならざる悪と教え込まれてきた。 だが。 キラと数ヶ月生活をともにし。 クルーゼの元で行動を共にしているうちに彼らとて感情があり、大切なものが在り。 己の信念の元、自分の居場所と大切なものを守るために戦っていることを目の当たりにした。 そして何よりも。 人の理に外れたモノに過ぎないはずだったコーディネーターもまた人なのだと。 自分と同じ、人なのだと気づいた。 これは彼女にとって今までの認識を根底から覆した、大きな意識改革となり、同時にそれはキラに対する理解、そして気持ちの変化でもあった。 彼に会い、謝りたい。 償いたい。 クルーゼに開放された後、そのまま平穏な生活に戻れたにも拘らず、彼女が再び戦場に出たのはその想い一つだった。 形は異なれど、人は人。 オルガ、シャニ、クロトとの出会い、そして再会は彼女にそれを再認識させた。 彼らもまた。 おびえながらも気丈に自分達と向き合い、モノとしてではなく当に忘れていたはずの、諦めていたはずのヒトとして自分達を見るフレイに興味を抱き。 哀れみでも憎しみでもない感情をぶつけてくる彼女に少しずつ心を開いていった。 その間も何度彼女を罵倒した事か。 何度彼女を脅した事か。 それでもなお。 そうされてもフレイは彼らの傍にいて。 共にあってくれた。 そんな彼女にオルガたちは孤独から、狂気から救われ。 フレイもまた、救われたのだ。 何の運命のいたずらか。 最終決戦の土壇場で3人とともにナタルがAAに寝返るとは思いもしなかったけれど、そのおかげで今ここにいる。 ナタルは今、元気だろうか。 オーブ軍に移籍し、今や一つの隊を率いる隊長となっていると聞く。 たまに連絡はあるものの、多忙らしくめったに会うことはない。 戦争が終結後、真っ先にオルガたちがやったことはロドニアをはじめとする強化人間研究所をつぶすことだった。 そこで彼らはスティングをはじめとする3人の後輩たちを連れ出したのだ。 だが強化された体は彼らの足かせ。 数年にもわたる過酷なリハビリを経てもなお、定期的にオーブの研究所に通わなくてはならなかったが、彼らはこうして生きている。 それで十分だった。 アウルとステラの年少組みはすぐにフレイに懐いた。 彼らは姉のように彼女を慕い、フレイもまた彼らを実の兄弟のように彼らを愛した。 スティングとは歳の近い姉弟のようで、彼の傍は居心地がいい。 オルガとより穏やかな気持ちですごせると言うことはフレイは黙っていることにしているが。 幸せの朝(後編) 「さて・・・・どうしたら良いかしらね」 ここはアウルとステラが二人でいられる機会を作ったほうが良い。 皆の目があってはアウルも行動に出にくいだろうし、その上この少年は意地っ張りである。 周囲が背中を少し押してやる必要があったから。 彼らの気まずさの原因は自分にもあるのだからここは自分がきっかけを作らなければ。 そう思い、フレイはテーブル越しのアウルとステラに声をかけた。 「アウル、ステラ」 「「なに」」 フレイの言葉に二人が同じタイミングで顔を上げて視線を投げてよこす。長い共同生活の賜物かもしれない息のあった行動にフレイはほほえましさを覚えてわずかに口元をほころばせる。 大丈夫だ。 このケンカも一つのスキンシップに過ぎないのだと、そう思える。 「ご飯が終わったら二人で洗濯物をお願いできる?」 フレイがかるく手を合わせて頼み込む仕草を見せると二人はちらちらと互いに視線をやり。 少しだけためらいを見せながらもうなずいてくれた。 当然オルガたちにもフレイの意図が伝わっていたようで、誰も口を挟む事は無く、互いに目配せを送りながらこっそりと笑っていた。 「・・・・ステラ、機嫌直せよ」 「・・・・知らない」 広い裏庭でステラが渡してくる洗濯物を干しながら アウルがおぞおずと口を開くが、ステラはそれはそっけなくて。 アウルは失望を覚えると同時に腹立たしさを覚える。 ステラのクセに生意気。 特に兄貴分たちと姉貴分が増えてから、アウルはステラの態度がでかくなったような気がしてならなかった。 ここはびしっと決めて、アウルは自分の立場が上だということを強調したかったのだけれど、今はそれよりステラの機嫌を直すことが優先だ。 もっともこの考えに至ることから既にステラの優位が決まったようなものなのだが、アウルは其のことに気づかない。 「あのさ、朝のは事故だったんだよ」 「そう」 このアマ〜〜〜っ。 かたくなままのステラにアウルは頬を引きつらせたが、ここは怒るべきではないと賢明な判断を下し、ステラのご機嫌をとろうとあれこれと手を考え始めた。 「・・・・浮気のばれた亭主みたいだね」 「同・感!!」 ベランダ上から下を覗き込んでいたシャニがもっともな意見を述べると、クロトも真面目腐った態度で同意する。 まさにその通りな光景だったのでフレイは危うく噴出しそうになった。視線をずらすとオルガとスティングも同じだったようで懸命に笑うまいと、表情をピクピクとさせているのがなんともまたおかしかった。 「フレイさんの声、ステラのと似てたんだよっ。ステラかと思って・・・・」 「ステラ、フレイのと・・・・似てるの・・・・?」 「そうそう!!」 ようやく話題に食いついてくれたステラにアウルは安堵の笑みを浮かべて力いっぱい肯定する。 ステラはフレイと似ている、と言われたのが嬉しかったらしく、そうかな、と繰り返し。 其のたびに目一杯うなずいて見せたアウルだったが、次第に面白くない気分にも捕らわれていった。 自分よりフレイが優先なのが気にくわない。 そう思ったらしい。 「・・・・おもしろくねぇ」 「あうる?どうしたの・・・?」 すっかりご機嫌になったステラとは裏腹に 機嫌を損ねたアウル。 「・・・・ワガママ」 こういう展開ですか、とベランダの上の住民は揃って頭を抱え。 シャニは呆れたように大きなあくびをした。 「ばーかっ、もうしんねー!!」 口元を一文字に引き締め、不機嫌なオーラを全開にして洗濯物を干してゆくアウルにステラはワケが分からないと小首をかしげる。 でも。 なんとなく自分のことでやきもちを焼いてくれていることが分かって。 それがとても嬉しくて。 朝のことなどどうでもよくなっていた。 ステラの口元に花のような微笑が浮かぶ。 洗濯物が片付き、洗濯籠を抱え上げてさっさと歩き出すアウルを追うようにステラも小走りでついてゆき。 アウルの開いた腕に自分のを絡ませてぶら下がる。 「おもてーじゃねーか、この馬鹿」 「うふふふ」 彼女の暖かな体温と重み。 迷惑そうな口調とは反対ににアウルのぎっと結ばれた口元がほどけてゆく。 蒼い空、白い雲。 暖かな日差しに少しひやりとした優しいかぜ。 気持ちのよさもあいまって二人の口元から歌声が漏れる。 上から見ても仲直りした事が一目でも分かって兄貴分たちはやれやれと安心したようにため息をつくと、 一人また一人とベランダから離れてゆく。 フレイは最後まで残ってアウルとステラが家の中に戻るまで見送ると彼女もまた中に戻っていった。 「フレイ〜〜っ、あとでイチゴ摘みに行かないっ?」 フレイが二階でベットメイクをしているとクロトがドタドタと階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた。 僕も。ステラもという声も続けざまに聞こえ。 家の中を走るな、とオルガの怒鳴り声も聞こえてくる。 「どーする?」 フレイを手伝っていたシャニが入り口越しから微笑んでいる。 「まずは家の掃除を済ませてからだっ」 下で弟分をいさめるスティングの声が下から響いてきた。フレイはクスリと笑うとシャニのほうを見やり。 「スティングのいったように掃除のあとに」 「おっけー」 下の階を指差してそう告げると、シャニは柔らかく微笑んでうなずく。 「サンドイッチとか持っていきましょうか」 「それ・・・・ナイス」 シャニの紫の瞳が優しく瞬き。 フレイもまた微笑みを返した。 世話の焼ける可愛い年少組み。 騒がしい面々。 けれどそれはまた幸せと象徴でもあって、彼らと共に在れる自分はなんと幸せなのだろうとフレイはその幸せをかみ締めるのだった。 |